織田信奈の野望2 感想

 人より回避能力があるぐらいで他に能がない一般的な男子高校生・相良良晴が戦国武将が美少女/美女になった戦国時代に飛ばされ、縁あって尾張の姫大名・織田信奈に仕えるようになった、という歴史if物。
 1巻目の感想はこちら→織田信奈の野望 感想 - ここにいないのは


 2作目である本作では美濃の稲葉城を攻めがメインとなっています。近江の大名浅井長政がまだ力がない織田家を吸収するために信奈に結婚を迫ってきて、阻止したい良晴は稲葉城を自分が落として最大の恩賞を得たいと思うものの、相手は天才軍師・竹中半兵衛であり容易くはいかない――というストーリー。
 国の為の意に沿わぬ結婚を迫られる中、織田信奈個人の野望或いは夢が明確にされて行きます。それは2つで、どちらもよくある話で、対立する場合も欠伸がするほど多いです。1つは織田信長がそうであったように、彼女も世界における日本を形作るという夢。もう1つは好きな人と結婚する――女の子としての最後の甘い夢。戦国時代にその2つが成り立たないのは周囲の人間の誰もが判っています。そして、戦国時代のルールから外れた未来から来た相良良晴にも、姫大名である織田信奈にも。それでも、

「……良晴が言わないと、たぶん止められない」
「なんでっ?」
「……姫さまの“夢”をほんとうに理解している家臣は、良晴だけだから」
 (P59)

 信じていない誰もが織田信奈が幸せになることを願っていて、叶えられるのが誰かも判っています。後は彼らがどう動くかだけ。それでも素直になれない信奈だったり、女好きの良晴だったりするのが面白い所です。

 
 良晴に関しては戦国時代に適合しすぎな面もありますが、そこでうじうじされるよりは余程良いと考えています。
 途中で良晴が信奈をどう補佐していくと決意しているか表明されるのですが、前作の主従の誓いに匹敵する震えるシーンとなっていました。

「俺はな、あいつを天下に輝かせたいんだよ」
 (P171)

 信奈を魔王にさせず、失わずに彼女の夢をかなえさせる、と。その矛盾、その甘さ、その才の無さを指摘されても曲げません。そうするだけの価値があるように信奈が書かれてきたこともあり、重い言葉となっています。このシーンはまた未来の知識に従う今までから才を振り絞る一般人になる予測ともなっている点に注目すべきでしょう。実際、最後で明智光秀がようやく登場するのですが、そこで歴史と齟齬が生まれています。
 さてはてどうなるのかという所ですが、こう何と言うか痺れます。これぞ歴史if物の醍醐味です。


 頼れるものは多分この時代で得た仲間ということになるのでしょうが、良い感じに美少女が集まってきています。犬千代は常について守ってくれる頼りある武者にしてそこかしこで女の子として認めてほしがっている可愛さを見せますし、五右衛門は実力ある間者にして噛み噛みの愛嬌を発揮しますし、丹羽長秀など他の信奈の部下も信頼しつつあります。新キャラの竹中半兵衛は良晴の決意に触れて主君と仰いできますし、明智光秀も世界を語れ知恵者であると慕ってきます。そこらへんはハーレム形成として素直に楽しめました。まあそのハーレム形成がきな臭い感じになっていく予感を感じさせるのですが、それはまた後の巻で語られることになるのでしょう。
 個人的な一押しは犬千代。無防備と意識が混在した幼くそれでいて見ごたえのある乙女チックさがありますし、一番長く身近にいますし、信奈の前で信奈に匹敵する美少女と主張するなど積極的になっていますし、魅力がまた一段と増してきています。
 そう言えば今回は全体を通してねねの影は薄いのですが、一つだけ強いインパクトを残しました。なんと、初っ端でおしっこを引っ掛けているのです。8歳の美幼女が。大変結構なことです。


 史実に沿った事柄――例えば羽柴秀吉のひょうたん、墨俣一夜城、岐阜という町の誕生などは上手く処理されていました。

 
 文章はまだ上手いとは言えませんが進歩していて、テンポの良さに磨きが掛けられていました。会話文、地の文ともに歯切れよく進んで行きます。
 ただ登場人物紹介が巻ノ二でざっと行われていて、連載されていた訳ではないのに何故そこで挿入するのか気になりました。おそらくは巻ノ一では導入のテンポを優先したのでしょうが、不自然に感じました。細かい点ですし、自分だけかもしれませんが。


 挿絵は素晴らしいの一言。流石みやま零さんです。特にP243の丹羽長秀は秀逸でした。


 以上。明智光秀が登場し、今川義元が再登場する歴史から外れた歴史が始まります。その中で良晴はどのような役割を果たしていくのか、そしてどのような美少女を転がしていくのか、今から次の巻が楽しみです。

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織田信奈の野望 2
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