ロケットの夏 感想

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 地球がロケッティアを通して追い求めた宇宙との繋がり。しかし、一度は手に入れながらも、自らの手で全てを手放すことになった。その結果として、地球は行き詰まり、停滞する。そんな状況で50miles overを目指すロケットを作ろうとする少年少女たちは最終的に何を得るのか、というジュブナイルSF。
 

 ロストテクノロジー系の手の掛け所は“喪われた理由”ないしは“技術の真の目的”にあると思うのですが、取得と喪失の時代が近い本作では前者が大体において主題となっています。


 何故異星人を全員追放したのか、
 何故ハイブリッドは残ったのか、
 何故地球人は地球を出られなくなったのか、
 

 全てに問いに絡んだ美しい答えが出るのは歩ルートだけです。
 他のルート、特に千星、ベルチア、はるひルートはストーリーが悪い意味でステロタイプとなっていて、見るべき所は少ないです。萌えさせるのが目的ではない、ガジェットメインの陳腐なストーリーは腐るのが極早なので気をつけて、というのが教訓でしょうか。
 ただし千星ルートの宇宙を求める意思とその否定の対立という類型極まりない(にも関らず色褪せない)テーマには新規な解決による魅せ方が残っているような気がするのですがねー。このルートでは膨らませると収束が厄介と判断したのか、超“神の手”解決となっています。
 うーん。というか、発売された時期における平均的なボリュームを鑑みて判らないでもないのですが、本作にはこういう隔靴掻痒の場面が幾つかありました。個人的に特に歩ルートの「復活の日」的な描写、セレンルートの戦争描写をもっともっとねちっこくやって欲しかった。その後に出るマブラヴオルタ・群青という奇形的な戦場物がエロゲーマーから許容されたのですから、受ける下地はあったと思うのですが。


 閑話休題
 兎も角、歩ルートには制限がかかっていますし、上記に挙げたルートはキャラクタ・世界に慣れるための準備と納得しました。


 最後にセレンルートについて。ファンタジーよりの幸せな御伽噺としてまとまっているのですが(意訳:これはSFではない!(笑))、ただ何よりも本作において心が動いたシーンがありました。


 満天に星が輝く夜、異星人のお姫様と歌いながら田舎道を歩く、という光景。


 その美しさに惚れました。ワンダーではないにせよ、説明し得ないセンスに震えました。この得体の知れない個人的な感動を根拠に名作と断言してもいいとさえ思います。


 以上。総じて見れば、良きにせよ、悪きにせよ、古典的名作でした。

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