青い砂漠のエチカ 雑感

 <致死性複合性感染症>により人類は現在進行形で減少しており、AIによる感染リスクの算出値によって行動制限が設けられるようになった未来。社会のシステムが死に至る感染症に適応し激変し、ARとVRが否応もなく発達した2045年。少年と少女はそれでも出会う――

 単巻物の長編SF小説
 仮想現実が発達した未来でのボーイミーツガールというのはよくあるお噺なのですが、仮想現実が発達した理由が結構殺伐としています。猖獗をきわめても、それでも人類は適応するし、そしてその適応した社会で人の営みは続いていく。その人の営みとしての青春、ラブストーリーが書かれています。

 ――人類の適応。現実の体とアバターとが入り乱れる教室だったり、人が触れ合わないけど親愛を示す感染仕草だったり、養子縁組がスムーズに行く家族構成だったり。
 あるいは考え方の違いで、モラトリアムが非常に短くなり、高校時代の将来の志望の意味合いが極めて強くなっています。志望/生きているうちに叶えたいものは早く見つけろ、と。
 そして志望が見つからない男子高校生・時田砂漠と、天才を志望する女子高校生・鳴神叡智花とが出会い、化学反応を起こし、慌ただしい日々を過ごすようになっていきます。
 例えば入学式の視覚ジャックの犯人捜し、部活や文化祭、あるいは宝探し。
 本当に楽しそうでみずみずしさがあり、死が満ちていなかったかつての社会にあった思春期は死が満ちた後にも失われていないことが伝わってきます。
 それは恋も一緒で、生涯のパートナーを見つける場になるとこれまたちょっと重いけれども、片思いやすれ違いとか、好きだと言葉にし合わないで好き合っている間柄とか、若いさや当ては止みません。
 しかし今を楽しんでいるだけではいられない社会があって、引っ張ってくれて好きだと気づいた彼女がいて、砂漠は何をしたいか志望を手に入れます。その志望で暗い未来に相対してヒロインとどう立ち向かの展望はまばゆいものでした。
 SFでしか書けない社会の在り方と、SFでしか書けないーイミーツガール――これぞ青春SFだと満足した次第です。


 あとは青春SF物として剛速球を投げ込んだうえで修飾の萌えで素晴らしいことを2つやってくれています。 
 一つは方言女子。
 主人公たちの初めての会話が、これです。

「入学式のこと調べちょるん?」
「きみのことも少し気になっていたんだけどね。鳴神叡智花さん」
「うちのこと知っちょるの? 時田砂漠くん」ぼくの名札を見たのだろう。
「さっき新入生代表挨拶してたじゃないか」
「そうじゃね。あねえな場では、うちときみのあいだには非対称性が生まれるけえ」
 〈あねえな〉とは、ああいうの意。
  (高島雄哉.青い砂漠のエチカ(星海社e-FICTIONS)(p.33))

 こういう会話がてんこ盛りであり、山口弁萌えでした。

 2つ目が年上女装ショタ。
 首をひねるんですが、マジなのでしょうがありません。
 『不可視都市』では唐突な浮気レズセックスに萌えたのですが、本作ではなんと〇が〇〇・・・。いや肉体接触が少なくなっている世界での少なくて印象的な肉体接触がまさかと、結構びっくりしたので一読オススメ。


 以上。良い小説でした。

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