大学を卒業後、偶々手に取った中学卒業文集に覚えのない同級生の文章が載っていた。いじめられっ子が代々書き継いだノートの存在を記した謎の同級生の正体を探ろうとすると、事態は奇妙な方向へと動き出した――
という出だしの推理小説。
ミステリで百合という評判を聞いていたので、気になって手に取ってみました。
そして、にちゃあとした笑みを浮かべさせられる作品でした。こういうの、大好きです。
ミステリとしてはホワイダニット、動機の推測が主となります。
見知らぬ同級生といじめられっ子ノートを探し出した矢先に転落死事件はなぜ起きたのか、なぜ再開したSNSアカウントに貴女は死んでいるはずだとダイレクトメールがきたか、なぜ香典は4880円だったか、なぜ誰も覚えていない少女の卒業文集の文章が載せられたのか。
skeleton in the closet/家庭の秘密――それぞれの隠した事情を暴いていくことになります。
その謎を解いていくメインキャラクタは2人。中学卒業後それなりに楽しみながらもぼんやりと生きてきた通称"ちっち””と、少女推理小説家の通称"ミユ"。彼女たちはかつて中学生時代に小説にまつわるちょっとした因縁があり、疎遠になっていました。
再会の縁の始まりは"ちっち"が布団を引っぺがすと全裸で寝ている"ミユ"を見た――というあざというものでした。以降表面上さらっとしながら、奥底で実はどろっと重い感情が淀んでいる2人の交流が進んでいきます。
それだけでも眼福なのですが、ミステリとしての仕掛けと謎解きの経過がより2人を密にしていくあたりで嬉しい悲鳴を上げさせられました。
というのも本作でより重要となるのは、犯人そのものや動機そのものではありません。
「自分でも、なんであんなことをしたのか、いまだによく分からないの。ねぇちっち、私、なんであんなことをしたのかしら」
(Kindleの位置No.1927-1928)
"どうしてその動機を解けてしまうのか"。
そう、謎解きをする彼女たちへと矛先が向かいます。
ルールも規則性もない極限状態の異常行動を何故正しく言語化出来てしまうのか。そして何故日常へ回帰するためにフラットに裁けてしまうのか。
周囲から理解していることを理解されない2人で、互いの異常性を許せる/愛せる2人だけの関係性が深まるのってちょう百合ですよね。
そうして、ありとあらゆる仕掛けと伏線と百合感情とが炸裂し、平穏たる最後の一文へと結ばれる最終章は何度も何度も読み返したくなる密と毒が込められていました。
や、まあなんというか、ごちゃごちゃと言ってきましたが。
妙齢の女性2人がホテルで同じベッドに肩を寄せ合って寝っ転がりリズムゲーの画面を供覧しながら、これから告発する殺人犯を待つとか最の高――という気分が判る人には間違いなく嵌るものかと。
以上。百合ミステリとして大変楽しめました。
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