帝国宇宙軍1-領宙侵犯- 雑感

 700年以上前、100万を超える移民船の乗組員はワープ航法のエラーにより宇宙の迷子になり太陽系に戻れなくなった。彼らは地球に戻る方法を何としても見つけ出すことを国是とした銀河帝帝国を築き上げた。別の移民船から派生し、帝国を一方的に敵視する自由星系共和国は折に触れて敵対行動を取っていた。しかし帝国の護衛艦への誤射から、これまでと異なる星間国家間の緊張状態になろうとしていた――

 
 SFのシリーズ1巻目にして最終巻。
 何百年経ても柔軟性があり理智に満ちた帝国と、固定概念と視野狭窄に陥った共和国との対立という諧謔からして、もう作者ならではという舞台設定でした。

 ……なんだか不統一きわまりないけれど、皇帝だからね、皇帝。(歓呼の声)
 しかしいまだからこそあえて申し上げておきたい。いったい諸君はわたくしにどこまで面倒を押しつける気でありますか、と。(笑い)
   (帝国宇宙軍1-領宙侵犯-(ハヤカワ文庫JA)(Kindleの位置No.276-278))

「この星系に新しい国を作るなら、銀河連合か銀河帝国、どっちがいいかな、って」
銀河帝国?」ワンジクは目を剝いた。
「なんというか、寂しい立場じゃないですか、我々は」
  (中略)
 なんていいかげんな、と天城はおもった。我らが銀河帝国が建国への道を歩みだしたのはこの一言からだなんて。しかしこれが史実なのだ。
   (帝国宇宙軍1-領宙侵犯-(ハヤカワ文庫JA)(Kindleの位置No.642-658))

 読めば読むほどその一員として、あるいは軍人として属するに足る銀河帝国の姿が露わになります。元首・貴族制は国是へと、そして住民へと正しく奉仕されようとされ、実際そうである。完璧ではないにせよ、現実的な理想を追求した国家となっています。
 そして本作の主人公も作者のこれまでの作品のように、自覚がないながら他者から指揮官として信頼される軍人としてきちんとキャラを立たせていました。
 全てにおいて洒落にならない部分はしっかりと押さえつつ、『A君(17)の戦争』の魔族国家の描写のような緩さも含み、設定と描写の仕方の融通無碍さは名人芸に近いものがありました。
 ここから理想的な国家と人とが消耗していくのか、或いは最初から最後まで理想を貫いていくのか――シリーズが進むにつれて明らかになっていく筈、でした。

 この作品の悲しむべきことはただ一つ。
 誰でも指摘できることではありますが、本作は永遠に完結しません。
 ここで作者が存命でも続きはしたにせよ円満に完結したかどうかわからないことを笑うべきかどうか悩ましいですが、待つことはもう出来ないのは嘆いても許されるんじゃないでしょうかね。

 以上。続きが、読みたいですね。

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帝国宇宙軍1-領宙侵犯- (ハヤカワ文庫JA)
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