飾っていない題名のライトノベル。
ちょっとびっくりするぐらいに、本当に題名通りです。
絶対ナニカ裏があるんでしょと思いながら読み進めたのですが、全くそんなことはありませんでした。
高校生たちが放課後から夜にかけて公園に集まって、しょうもないことをだべって、どっきりとかアホなことをする。
大体20ページぐらいの掌編が15編あるのですが、どれもこれもそういう作風で、シリアスな事情とか深刻ぶった対立はなく、あー1日しょうもなかったと笑って別れるような些細な時間だけを取り上げています。
登場人物はちいちゃんという男子高校生と、エリカという女子高生の、家が隣同士の生粋の幼馴染の男女がメイン。
そして、その少女側のエリカがですね、最強なんですよ。
これぞある種の理想のかたまり――ありうるべき美少女幼馴染の純粋体かと。
容姿――黒髪、放課後からはコンタクトから眼鏡に変え、ポニーテールに髪をまとめた姿を魅せる、はい合格合格ーと言いたいその姿。
黒歴史も、白歴史も、生きてきた時間のほとんどを共有して、一緒にいるのに肩に力の入らない関係。
馬鹿をやれば肩をどつかれ、肩をどつく、気心が知れた在り方。
こう、彼らの遣り取りを重ねれば重ねる程、譫言のようにすばらと繰り返したくなる関係性でした。
いやはや交換日記ですってよ、交換日記(そこに仕掛けられたしょうもなさがまた輪をかけて良いんだ・・・)。
ただ、なによりもなによりも、心を貫かれたのは。
彼らが子供の頃に始めた、遊び。
「それじゃ、ラスト一球。最後は吾妻ドロップで締めるから」
マウンドに立つ俺はそう言って大きく振りかぶり、ボールを放る。俺の投げたボールは妙な弧を描き、瀬川エリカのグラブにおさまった。
「おぉ、落ちた落ちた」
瀬川はボールを捕ると、立ち上がって、返球してくる。
俺達は、クールダウンのキャッチボールをしつつ徐々に互いの距離を縮める。最終的に目の前までやってきた瀬川のグローブに俺はポンとボールを置く。
「ねえ、この前ナックルの投げ方教えたんだから、その縦カーブの投げ方、教えてよ」
帰り道を歩きながら瀬川が言った。
(園生凪.公園で高校生達が遊ぶだけ(講談社ラノベ文庫)(Kindleの位置No.1350-1356).)
――キャッチボール。
重ねて言いましょう。
キャッチボール。
ぼくが振りかぶり、あの娘が座って構えるミットに向かって投げる。仲の良い男女で、投げた変化球をきゃっきゃっと評価し合う、あれ。
どれだという感じですが、いやもう、力をいれないちょっとした遊びなのですが、ラストの草野球の風景と合わせて、僕の心にジャストミートな代物なのでした。
この関係を成り立たせ、あの風景を見せてくれただけで、自分にとってオールタイムベストに上げたいぐらい。
以上。大好きな一作です。お薦め。
- Link