<ゴブリンスレイヤー>は指輪の鑑定をしてもらうために<弧電の術士>に会いに行った。その縁から怪物辞典のゴブリンの章の改定を任されているという彼女と共にゴブリンの生態を探ることになる――
ゴブリンスレイヤーがそう名の売れ始めた頃、本編の前日譚の2作目。
過去を描くということでゴブリンスレイヤーの本編よりも未熟な面や、主要キャラの合縁奇縁など、本編の保管として働いていました。そして同時に外伝でもあり、メインストーリーに影響しない枠内で、世界観を使って割と好き勝手に遊んでもいます。
前作の地味に必死に村を守るクエストも地味に面白かったのですが、本巻での奔逸ぶりは外伝でしかできない趣に満ちていました。
今回好き勝手使われていたのは、世界の謎の一端――卓上を見下げる視点について、です。
本シリーズの世界は、骰子の出目に支配される卓上という概念に近い代物となっています。しかし骰子を極力振らない振らせないゴブリンスレイヤーが主に動く時点でメインストーリーには関係しにくく、彼の物語には縁がない置物です。
この巻ではその世界の謎の解明を希求する<弧電の術士>が登場し、ゴブリンスレイヤーが彼女の物語の一端に関わることでようよう記述されます。
ここでまず<弧電の術士>そのものがユニークであり、際物ヒロインが好きな面子に対してこういうの好きでしょとストライクゾーンど真ん中に投げ込んだ造形でした。
妙に肉感的な肢体で、酒を飲んでもアルコールの匂いがせず林檎の匂いのみを漂わせる蠱惑さ。「腑分け」が上手かったり分析に長けている実務能力の高さと、血と汚物に塗れるのも頓着しない性格。
彼女はゴブリンスレイヤーへとローブを放り、腰から奇妙に曲がったナイフを抜いた。
そして小鬼の死体へ一気に振り下ろし、醜く太ったな小腹を切り裂き、内臓を引きずり出す。
溢れ出たどす黒く濁った血を両手に掬い、まるで水浴びでもするように全身へ塗りたくる。
(ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン2(GA文庫)(Kindleの位置No.1049-1052))
ぐじゅりとゴブリンの性器を指先で弄び、彼女は「女泣かせ泣かせの逸物だ」とくつくつ笑った。
(ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン2(GA文庫)(Kindleの位置No.1249-1251))
彼女の魅力さを上げようとすると登場シーンほぼ全部になりかねないくらい良いキャラをしていました。
クライマックスではその<弧電の術士>と共に、認識した者にしか見えない塔に赴き、彼女が目指すものへ向けて只管駆け上がります。
塔を敵を倒しながら謎を解いて踏破していく過程と、世界の真相の証明の強度が増していく過程とがシンクロする盛り上がりは見事でした。
や、まあ本編を知る者からすると、大冒険しているじゃんと突っ込みたくはなりますが、ゴブリンスレイヤーはゴブリンスレイヤーなのでしょうがありません。
最終的に彼女が世界の謎に本当にたどり着けたのかどうか――実のところそれはあまり重要ではないことが本巻を切れ味良く纏めていたと思います。
彼女は骰子を振り手がいると仮定し思考を巡らせ計算し目指して去った。
ゴブリンスレイヤーは興味もなく彼女を見送り彼の日常へと戻る。
そのあっさりとした、お互いの生き方が一瞬重なりすれ違っていく在り方と書き方は外伝でしか生み出せないものだったかと。
以上。出来の良い作品でした。
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