レイセン File1-8 雑感

 『戦闘城塞マスラヲ』で聖魔杯を生き抜いたヒキオタニート・川村ヒデオが宮内庁神霊班に就職してからの騒動を書いています。
 目つきが凶悪に悪く闇の住人や暗殺者などに勘違いされ、ストレス負荷がかかりすぎてぷっつんした時の口八丁で神や精霊までも唆すが、根は極めて善良で平凡というヒデオのアンバランスさは否応なしに非現実的な力を持つ者の目を引き、ありていに言っていじりにいじられます。
 ――その平凡さと、その人としての平凡さを神へをも押し付ける在り方をどこまで貫けるか、その艱難辛苦を見届けよう、と。
 だからヒキオタニートをしていたかったけど就職させられて仕事に苦しむ様を横にいる闇の神様はにやにやしますし、ヒキオタニートでいたくなかったのも事実で待望の普通の人間のイベントをこなしていく彼を生暖かく見守っていきます。
 しかし安寧や停滞は観察者の趣味ではなく、ヒデオを右往左往させて見せる無様な姿と愚直な本性を愛でたい神様の目論見もあり、また科学を中心に大きく変わっていく世界で神や精霊に関したトラブルこそがヒデオを放っておきません。そうして最終的には酸鼻な鉄火場へと至ります。
 その展開をこのシリーズ通してヒデオを焦点とした群像劇的な書き方で描写されており、その筆致はかなり巧みでした。複数の種族、複数の組織、複数の時空の思惑が入り乱れ、それぞれの目的を達するために各自きちんと最善を尽くしていきます。その書き分けはご都合主義はなく当然のように衝突するのですが、その俺ルールの押し付け合い・張り合いの最終的な折衝にヒデオが立ち会うことになります。
 そこで弱く流されやすい彼が意地をどこまで張り続けられるのか――大きな物語が川村ヒデオの物語へと還る、と。
 ヒデオという人間を見事に作り上げ、彼の人となりへの興味を作品内から言及することでメタ時に読者へも同期させた上で、彼の言動=作品の顛末を最後まで見届けさせたいと思わせる良い小説でした。

 その他のキャラも尖っていて良かったですし、なんだかんだでヒデオがヒロインに恵まれていくのもライトノベル的に楽しめました。


 以上。精霊シリーズは次回のヒマワリで最終になるとのこと。女子高生が主人公らしいので恐らくそこまで表に出ることはないでしょうが、ヒデオの活躍も楽しみにしています。

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