生徒会の演劇の舞台が幕を開ける。
そして物語は新たな局面へ――
この巻を読んだ想いを一言で言えば『好き!!!』となるのですが、それだけで終わってはなんなので、もう少し言葉を無駄に費やしてみます。
いやだってほら、この巻を読んだら、周到に用意された無上な情理に叫びたくなってしまったので、少しだけガス抜きをさせてください。
さて、本作はこれまで積み重ねられてきた要素の集大成となっていました。
劇に関しては本番を迎えるので当然のことではあります。主人公の燈子は亡くなった姉の幻の後を追って誰もにとって優秀で特別な人間をリアルで演じてきたのですが、劇の主役として記憶を失った少女を担当することで、自らが目を逸らしてきたことを否応なしに目の当たりにされます。劇中の記憶を失った少女は学校の友人、家族、恋人からかつての自分が語られるのですが、それがどう生きてきたかの追体験となり、その生き方の空虚さの指摘でもあり、全てを理解した上でどう生きるのか再度選ぶのを強いられるように感じてしまいます。
そういうごちゃごちゃした感情が言葉として表出されるのが『変わりたくない』――というものでした。
その変化を拒む感情に関しては燈子と侑の関係にとってもそうでした。彼女らは特別がわからない者同士で共感しあったものの、燈子はあっという間に特別を掴んでいき、侑は特別が判らないままでした。そして侑は判らないままでいいから燈子にとって好きな対象でいて欲しい、むしろ好きにならないで欲しいと身勝手にも語られてきました。
いずれの燈子の想いも、劇の本番を経ることで呆気なく罅が入り、彼女の正しい性質をもってより正しい成長を遂げ、幻を追うのを止めて変わっていこうとします。
判っていたことです。
変わりたくないという願いはかなえられないと。
では変わらないで欲しいと願われた方――侑にとってはどうだったかと言えば。
それは呪いでした。――大事な、大事になってしまった人が、そう言ったから守らないといけないと。
その上で言った張本人が変わっていってしまいます。
ただそれは自分が変わらないまでも、燈子には変わって欲しいと願って行動した成果でもあります。
結果として自分も変わっていたのに表向きは変われないまま、新しい燈子に置いていかれそうになると感じるようになります。
ことここにおいてこれまで侑の募ってきた葛藤が最高潮へ。
きゅんきゅんする心理の変遷なのですが、その発露の最後のシーンがほんと最高。
きっと先輩はこれからも変わっていく
だからいつか
いつか
(No.158-159)
これまで通りを保障するものなどなく。
今、決定的な一歩を踏み出すしかありませんでした。
いやもう、その想い、その行動に叫ぶしかないじゃないですか。
なにせ、これまで侑は述懐してきました。
――いつか輝ける星に届くのだろうか。
――いつかふわふわした感情を得るのだろうか。
――いつか、誰かを好きになるのだろうか。
それが今なのだと。
必死になっている侑には振り返る余裕なんてありませんが、読者にとっては彼女の到達した苦しみこそ祝福するものだと知っています。
これは恋の物語。
想いが双方向に開いたこれから、彼女たちがどういう結論を出すのか、またそれがどのように描写されるのか実に楽しみです。
以上。今から続刊が待ちきれません。
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