冷たい勝利 雑感

 艦これの同人小説。
 C95で総集編が配布された作品であり、もう1年半ぐらい前になります。艦これ小説界隈はもう『ありや』しか追ってないので疎いので、これまで全く知りませんでした。
 しかしメロンブックスを彷徨っている時にシンプルな表紙が目に留まり、検索した所評判は悪くなかったので、えいと購入しました。
 一読しましたが、かなり良かったので、簡単に感想をば。

 ジャンルとしてはシリアス系戦記物。
 北遣艦隊の物資輸送を担う「輸送戦部隊」の戦闘記録、その記録を受けての「輸送戦指揮班」の反省会議事録(下書き)が連なっていきます。目的は物資輸送の達成であり、拠点奪取や戦姫を倒すなど華々しい戦果は決して上げません。戦局を動かすこともありません。
 駆逐艦と水上母艦が輸送を行い、敵潜水艦に襲撃されれば現場での動きが妥当だったのか再評価し、なぜ襲撃されたのかを航路と通信方法を省み、適切で効果的だった対応は作戦の符丁として纏め上げていく。部隊の補給は陳情するもの全てが下りるわけではなく、艦娘のダメージの回復には当然時間かかり戦闘に参加できなくなった場合は不慣れな中での出来るだけの最適な艦娘で代替する、という細かで命に直結するリソース管理。その繰り返し繰り返しです。
 サンプルはこちら。
 


 記録形式であるからこそ基本的には何故そのような文章になったのか――それは行為ならばどのような計画と現場の臨機に基づくのか、それが反応ならばどのような感情に基づくのか、を考えながら読むことになります。そうした感情を交えない戦闘記録の無味ゆえの妙、反省会議事録(下書き)の指揮官・秘書艦・現場のリーダーの立場によって異なる発言と意図とは異なる発言の行間の妙は読み応えがありました。

 それに加えて、画が内容をよりアップデートしていました。
 戦闘記録に挟まれる艦娘や戦闘機のちょっとした一コマで戦場の風景が匂ってきますし、台詞がない大井と艦娘の漫画絵は想像をかきたてられましたし、文と絵を上手く併用していたという印象です
 
 そして何よりですね、秘書艦の大井が素晴らしいのですよ。
 武骨で現場の艦娘への共感に欠けているように見える指揮官と戦場で翻弄される艦娘に挟まれた立場から始まり、両者への理解が深まっていき、やがては自らの身の振り方を決めることになっていく。議事録(下書き)の走り書きと一コマだけで、作者が伝えたい彼女の魅力が伝わってきました。

 以上。良い同人作品でした。このサークルの漫画の同人誌を手に入れて読んでみたいなと思います。

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