20世紀SF〈5〉1980年代―冬のマーケット 感想まとめ

pub9920世紀SF5「冬のマーケット」読了。ギブスン作。+1。パーティーで偶々出会った薬中の女は電脳空間での表現の怪物だったーー。ヒッピー風の先生とか、有線のテクノの描写とか、コマーシャリズムの無理解によるテクノの破壊だとか、イッツアサイバーパンクとしか言えないlink
pub99筋書きは陳腐で、ガジェットも風化してるし、電脳アートも伝わってこない。にも関わらず、どうしようもなく重要で、熱い作品だと判断したlink
pub99この短編から、なぜサイバーパンクは小説やCGなどで表現しようとしたのかーーという問いの応えを感じた。手応えを単純に言ってしまえば魂の流出となりますかね。表現せずにはいられない熱さはどんなムーブメントでも変わらないなとlink
pub99旅人とかヒッピーとかサイバーパンクとかインナースペースとかが小説を書く理由がぴんと来なかったけど、ようようにしてピントが合った。それだけでも読んだ甲斐があったなあlink
pub9920世紀SF5「美と崇高」読了。0。スターリング作。人工知能が発達し、あらゆる分野で自動化が進行した未来を舞台に、一周回ってデカダン真っ盛りになった新世代を描いている。link
pub99社会と自分の生活を成り立たせている物質的な恩恵を軽視しているにも関わらず、自分の欲求だけを追い求める主人公の思考回路にいらっ☆ときたけど、それぐらいに感情移入出来る上手い一人称の文体だった。link
pub99旧世代への見方も何もわかっていない感がバリバリで、だからこそわからないままに世代が交差し、ある程度は意を汲んでしまったカタストロフに至るのも上手い。link
pub9920世紀SF5「宇宙の恍惚」読了。-2。ラッカー作。ヤク中とセックスダンサーがぶっ飛ぶ話。うん、うん? という感じ。真面目に読むとアホウな話だけど、不真面目に読んでも反応に困る。ラッカーらしいけど、これをあえて選んだ理由がわからんlink
pub99小松左京の神への長い道へに何マジになってんとかアンチテーゼなどでSF馬鹿話するには使えるのかなあ。うん、まあしょうもないのには変わりないlink
pub9920世紀SF5「肥育園」読了。-1。オーソン・スコット・カード作。肥えた人間を均整の取れた体に生まれ変わらせる施設に通う男性のお話。資本主義の豚を皮肉るというか、ちょう倫理的というか、オチの付け方ひっくるめて教訓のある寓話めいた堅い短編。link
pub99予想の外に一歩も出ないけど、何故か読まされる。さすがのストーリーテラーぶりだけど、こんなん読まされてもなあlink
pub9920世紀SF5「姉妹たち」。+1。グレッグ・ベア作。デザイナーズチャイルドが一般的になった社会での、デザインされずに自然に生まれた少女の物語。これは滅法面白かった。喪失と獲得と成長に満ちており、青春SFとしてはかなりの良作。link
pub99デザイナーズチャイルドと、自然に生まれた子どもとのそれぞれの葛藤を、操作されていない子どもの視点から分け隔てなく描写されている。最初の自らの醜さを嘆いたり、親を憎み、デザイナーズチャイルドとうまくいかず、学業も思ったようにいかない有様は胸にくるlink
pub99そして次第に誠実に乗り越えて行く姿勢は力強く、同時にひたひたと迫るカタストロフの足音に慄いてしまう。ハイティーンの心理描写とマッチして、痛みと苦味と甘みのある青春と同期し、良い感じに狭いコミュニティと世界が繋がっているlink
pub99デザイナーズチャイルドが被造子(ひぞうっこ)、デザインされてない子どもが自然体とか役の工夫されたネーミングもにやっときた。英語だとどうなってるんだろうか。気になるlink
pub9920世紀SF5「ほうれん草の最期」読了。-1。世界からほうれん草が消えるきっかけとなった一瞬を描く短編。なんじゃこりゃあという気もしないでもないけど、世界の終わりはこんなものかもしれないlink
pub9920世紀SF5「系統発生」読了。+1。ウイルスになった人類を描いた異色の短編。たまたま定着した宿主の中でうじゃうじゃと増える生き汚なさとか、遺伝子に埋め込まれたままにリーマン積分を解き続けたりとか、環境に破綻がきた時の対応とか、ミクロ単位の人生の異形なヴィジョンを見事に書いているlink
pub99単語とアクションがもっとジャーゴンでまみれていたら文句無しのハードSFだったのだが。イーガンのディアスポラ好きにお勧めlink
pub9920世紀SF5「やさしき誘惑」読了。+1。山に密やかに生きていた女性がナノテクで億年レベルまで進化していくという、とんでもないスケールのお話。ナノテクの初期だからこそ出来たのだろう容赦の無い進化っぷりを堪能した。link
pub99一般人の女性が人間のままヒトをはみ出して行くのはちょいと興奮したのだけど、これって種族的なNTRlink
pub9920世紀SF5「リアトル・ホテルで」読了。0。コニー・ウィリス作品。ハリウッドで開かれた量子論の学会を舞台にしたコメディ。ウィリスお得意の繰り返しつつずれて行くギャグが炸裂している。link
pub99繰り返しにいい加減なんとかしろと吹き上げそうになった時に、「ドーナッツ食べたい・・・」とか透かせれ思わず笑ってしまった。どたばたでとぼけて愛らしい短編ではあるlink
pub99そして何で僕がコニー・ウィリスの作品好きじゃないのか何となく把握した。この繰り返しギャグを長編でやられると我慢できなくなるんだな。link
pub9920世紀SF5「調停者」読了。0。カルト集団が待ち望む世界の終わりが本当に来たら、カルト集団は何をするのかーーというお話。大した内容じゃないんだけど、筆致がむちゃくちゃ執拗で圧迫感があった。読み応えがあったlink
pub9920世紀SF5「世界の広さ」読了。-1。ある日突然今までの距離が膨張し、交通機関が麻痺した騒ぎを書いている。普通link
pub9920世紀SF5「征たれざる国」読了。+2。傑作。イアン・マクドナルドでも古川日出男でも持って来いやというぐらいに素晴らしい。link
pub99要約が難しいけど、戦火の耐えない国での亀のような女の一代記。家が動くなどの奇想と、カラスのような男に出会う卑近な恋愛譚とを融通無碍に行き来し、めくるめく幻視が出現する展開を只管に流されるままに読んでいくしかない。語る文体は猥雑かつ流麗で見事。link
pub99うん、とりあえず読めとすすめるべき作品の一つになったlink
pub99以上で20世紀SF5読了。飛び抜けていたのが「征たれざる国」で、次に来る「姉妹たち」と「系統発生」も素晴らしい。あとは「やさしき誘惑」「冬のマーケット」が好きかなlink
pub99これで河出文庫の20世紀SF短編集もあと一冊。何とか今年中に読み切りたいlink

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20世紀SF〈5〉1980年代―冬のマーケット (河出文庫)
中村 融 山岸 真
河出書房新社
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