相州戦神館學園 八命陣 雑感

 以下、愚痴。
 

 大正十二年、九月一日
  此処ニ我ラノ勝利ヲ誓ウ
         柊 四四八

 往々にしてというか、当然のようにというか、バトル物における戦闘では勝利を目指されます。そして勝利の先に目的や理想が待っています。逆に言えば目的や理想を叶えるためには勝たねばなりません。ここで、目的や理想は何か、勝負方法は何か、そして勝利の条件とは何ぞや?などが問題となってきます。個々の作品ではそれぞれに趣向を凝らされますし、それ事態の描写にも手塩をかけられます。
 nitro+の物語の良点として"ライバル的存在を、主人公・ヒロインどころか、サブキャラクターに至るまで配置し、これらを常に物語上で戦わせました"と指摘したのはASTATINE:「塵骸魔京」評。です。正田シナリオ前作の神座万象シリーズでもその傾向は非常に強かったですね。対になるキャラ同士は戦闘方法も弱点も理想も組み合うようになっていました。その相克及び止揚により、それぞれの答えを得ていきます。例えばそれは単に人間であるという在り方だったり、煌びやかなだけではないもので、得たもので幸福ならば勝利したのだ、と。
 さて本作はと言えば、戦闘準備の極致であったと評しても過言ではありません。『戦場』の構築に命を懸けています。逆に言えば戦場で相対する『対』を作ろうという物語上の意志が強すぎました。其と此とが相対する図式へと登場人物たちは導かれます。何を願い、どんな力を手に入れ、超えるべき壁の形はなんなのか――対になる形で定められ、ヒロインごとの3ルートで一つずつ披露されます。その描写は執拗で、凝り固まり、凝り固まっているところに対峙する形を目にすることで更に打ち据えられて硬く鍛え上げられていきます。そうして相対する『戦場』の準備にひたすら淫し、物語を盛り上げます。その強度は対の片割れ以外との相対自体に齟齬を感じるほどになっており、登場人物の方向性を練り上げる作者の意志はほとんどビョーキかと。
 問題なのは強度を練り上げる過程でパーソナリティ性が強くなりすぎて、登場人物の問題は所詮は他人の問題で、今一つ肩入れしにくくなっている感がありました。ふーん、なんかやっているわとADVとして目の前で展開されても阻害されてしまう気分になりました。物語を味わうにあたって必ずしも転写をしなくはいいかもしれませんが、バトル物を体験する場合には共感という同調性がある程度は必要でしょう。Dies irae/バトルオペラの世界ではエイヴィヒカイトするにあたり詠唱をするのですが、その文言は魂が込められており、聞くことで何故彼は今其処にいて、どういう力を揮おうとするのかいやおうもなく理解させられます。その詠唱によりキャラクタは自らの魂をさらけだし、プレイヤはキャラクタを再認識し、そのために以降繰り広げられる戦闘に置いてきぼりにされることはありませんでした。本作においても『詔』は重視され、彼らは海をバックに拳を突き上げながら願望を宣言する(いやあ青春青春)のですが、相対するにあたっての剥き出しになった魂とはまた少し違っていました。そんな訳で熱に浮かせようとする文章で念入りに組み立てられる関係性は素晴らしいのですが、良く出来ているからこそ、味わいにくさがありました。ルート毎のエンディングの仕掛けも空回り加減を増していました。なんせそのルートはその彼らの願望の条件をルールとして組み込んだシミュレーションなのです。その因が先か、果か先かわからない、鍋の中でぐるぐる回っている感じは煮詰まりすぎです。それはそれで一つの味ではありますが。
 ああ、あと本作の問題として戦闘描写自体がなんかいけてないなと。神咒神威神楽における壬生宗次郎の唯一無二の切断現象とかも全然いけておらず、嫌な予感はしたのですが、本作は輪をかけて残念なものになっていました。慌てて言えば悪いとは――口を捻られても言いません。裂けたら言っちゃうかもしれませんが。登場人物を形作ろうとした熱い言葉で戦闘行為自体を彩って欲しかったなと。重ねてエクスキューズを入れれば、当然この思いは私のもので、むちゃくちゃ熱い戦闘じゃないですかと主張されれば、全く賛同の意を表します。


 他に不満な点としては水希にフェラシーンが無かったことですね。それと虫の羽と足が生えて異形になった水希の陵辱シーンが無かったこともすっごい不満です。重ねれば蟲になった水希が神野にフェラをすれば個人的に神ゲーになったことでしょう。

 
 以上。好きになりたいお話なので不満が噴き出てしまったという愚痴でした。学園異能が好きならプレイしてもいいかも知れません。あと悪役の語りというか声には必聴のものがある(特に神野の祈りは最高)、そちらに関してはお勧めです。


 さて最後に私のどうでもいい予測を一つ。実のところ冒頭に引用した文章はこう続きます。『この文言は、百年先にも残るだろうか?』。ここに刻んだ木の板が学園の何処かに残されて、子孫に伝わり、笑い飛ばしてくれればいいのだが、と。最後のルートで最終決戦を前に想いを木の板に刻みながら述懐されるのです。ここで共通ルートのとある一説を引用してみます。

 ゆえに、そのとき現れたある変化は、誰の眼にも入らなかった。
 千信館学園資料室。創立当初の面影を依然残したこの空間に、時代を超えた過去からのメッセージが届いたことを。
 まだ誰も気づいていない。
 そして当の本人も、まだこれを書いていない。

 まだ答えとなる強い意志の混じっていない共通でのこのシーンは、ある意味汎用性のある未来のシミュレーションとも言えましょう。畢竟これこそが刻んだ木の板が保管される場所と刻んだ言葉が読めるという予言ともなっています。本作のオーラスで刻んだ望みは先へと確かに繋がっていたのです。その再演――本来繰り広げられるべく未来/現在の生徒らによる発見を続編で見ることが出来たら嬉しいですね。

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