おれと一乃のゲーム同好会活動日誌その1 感想

「罪を焼け――」
「空笑え――」
「赤き贖い『煉獄』(カサルティリオ)」
「欺く影絵『道化師の栄光』(バッドジョーク)!」
 一乃の右手が虚空より燃える炎の槍『煉獄』(カサルティリオ)を取り出し握る。
 キリカの右手が虚空より割れた仮面『道化師の栄光』(バッドジョーク)を取り出し掴む。
  (P22)

 この冒頭の描写は二人の美少女が異能で戦う場面です。
 舞台は校舎の片隅にあるエアコンのない部室であり、彼女たちは部員同士であり、戦う目的は主人公である少年・宗司とのデートを賭けて。――つまり。彼女たちは反目していますが、戦いは深刻な殺し合いではなく、三角関係の女の闘いのエスカレートした一つにしか過ぎないのです。
 そう、のっけから宣言されているのです。
 彼女たちは異能を持ちながら、屠るべき敵がおらず、ただ無意味な異能を抱えて日常を生きている、と。
 以降はだらだらと部室でツン系の素直になれない美少女に虐げられる部活生活が描写されることになり、本作のジャンルは作者が後書きで述べているように“日常系ラブコメ異能バトル”がバッチリとなっています。
 これが読んでいてエラい楽しかったです。三角関係ラブコメと無意味な異能の相性がここまで良かったとは……と感嘆の思いですが、もう少し詳しく見ていきましょう。


 まず前半。ツン系の素直になれない黒髪貧乳美少女・一乃と恋心に鈍感な宗司との2人が彼らが立ち上げたゲーム同好会という部活動をやるという名目に、部室で一乃にツンツンツンデレとからかわれる日常が描かれます。
 その日常は、メイドとかメイドとかメイドとか黒パンツとか犬とか「あーん」とか、かなり痒い代物でした。

「そう、私は森塚一乃、十六歳――」
 皮肉っぽく唇を吊り上げて、紺色メイド服姿の一乃は黒髪をかきあげる。
「えっちぃご主人さまにも健気に尽くす、薄幸の少女」
  (P51)

 という流れに色々なパターンのある決め台詞を決めたり、からかいながら若奥さまという言葉にドキドキしたり、要は引っ括めて一乃がツン系の可愛さ力を発揮します。


 そのむず痒さが延々と続いてもそれはそれで良かったのですが、後半において主人公に好意を隠さない明朗快活な銀髪巨乳という対抗馬が現れてから、仄かなラブコメ日常だった前半に乳分や太腿分といった肉体的な要素が加わって一層にラブコメらしくなりました。まあ巨乳と貧乳のコンプレックスの張り合いというのはラブコメに欠ける訳にはいかないよねという話です。
 で、騒がしくなった日常で、無意味な異能の無駄な戦闘がスパイスとして更に効きました。異能を持った美少女って地雷女が多いよねっという自爆的なキャラクタの奥行き生成も笑えましたし、最初に言及したように飽きもしない女の闘いに中二成分を混ざったことで他にも色々と引き出せそうです。それらの要素でぐるぐる日常が回っていけば、少なくとも3巻までは飽きることはないんじゃないでしょうかね。


 返す返す、魔王を倒すとかの目的を消し、長編の番外扱いの短編でもない扱いで、異能の戦闘と異能の所持者と異能がこれほど日常系と合うとは驚きです。ありきたりなのに新鮮――こういうのを読みたかったのかもしれません。個人的な嗜好として、この柳の下に二匹目がいるかは判りませんが。


 以上、面白かったです。次の巻では妹たちが更に出張って来て欲しいですねー

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