丸々一冊、上弦の壱・黒死牟戦。
時透が左手を失い、玄弥がバラバラに切断され、"岩柱"と"風柱"が巧みに連携をしても追い詰められていく。
如何にしてこの4名で黒死牟の頸を斬るのか――。
まず、この強靭な武を張る敵との戦いが熱い。
これまでの繰り返しでも、総決算でもありました。
失血・欠損――人たる身であれば刻まれるダメージによって技が損なわれていく。鬼が何様のように嘆くその人の弱さを、人間として死んでいきながらどう用いるのか。
その工夫、その力強さ、その系譜。
その戦い様は、一瞬の生を力強く輝かせる人間の賛歌でもありました。
そして、その輝きは人から鬼になり人であった時の心残りを捨てられぬ者にとってあまりにも劇薬で、刀よりも致命的な傷を負わせます。
黒死牟の人であった時の心残り――かつて見たもの。
四百年前のあの日
赤い月の夜だった
私は
(kindle No.94)
こうして嘗てを心に甦らせてから、徐々に、延々と胸懐が渦巻きます。何頁も何頁も同じことを語り続け――悔い続け、その想いがこちらに深く刻み付けられました。
この外に届かない、死にゆく敵の長い慟哭が本当に美しかった。
このシリーズを読んできて良かったと思いましたね。
以上。無惨戦の単行本化も心待ちにしています。
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