『青春ブタ野郎』シリーズ 1-11 雑感

 梓川咲太は図書館でバニーガールの格好をした美少女が誰にも注目されていないのを目撃する。それ以降、咲太は悩みが高じた少年少女の身の回りに少し不思議な現象が起きてしまう思春期症候群に"再び"巻き込まれていく――

 「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」から始まる、題名だけではナンバリングがわからない『青春ブタ野郎』シリーズ 。9巻までが高校時代を書くファーストシーズン、10巻からが大学生になってから高校時代の後始末をするセカンドシーズンにおおよそ分けられるでしょうか。
 主人公・梓川咲太は中学時代に遭遇した思春期症候群によって不登校の中学生の妹と2人暮らしをしているのですが、バニーガールをした格好をした国民的人気を誇る芸能人・桜島麻衣と出会い、彼女が「人から認識されなくなった」現象をなんとかしようと奮闘することになります。それから時間が巻き戻る現象、人格が入れ替わる現象やドッペルゲンガーが現れる現象などに遭遇し、原因となった少女の思春期の葛藤に向き合っていきます。
 そうして思春期症候群の少し不思議な現象の起きていることをきちんと把握し、原因となっているのが誰か、原因となっている屈託は何か、その屈託にどう向き合うのか――のサイクルが1巻ごとに繰り返され、その形になった思春期を掘り起こしていくサイクルのために少年少女の思春期が純度高く露呈――誰にも注目されたくない、今の自分が嫌だetc――し、その傷つけられやすく傷つけやすい青春らしさを大いに楽しむ作風になっていました。
 それぞれの巻を単体で取り上げても現代を舞台にしたローファンタジーとして良く出来ているのですが、通して読むと実のところ感嘆してしまうことがあります。
 というのも、主人公・咲太への試練度合いが激しく辛い。

 なんで、心が折れないのだろう、心が折れても立ち上がるのだろう、と。そう問いかけたくなるぐらいに辛い目に遭い続けます。
 1巻から超絶美少女の麻衣と彼氏彼女の関係になって嬉し恥ずかしのありゃこれするのですが、羨ましく思えないですし、もっとやれと応援したくなるぐらいでした。
 恋人関係になったと思ったらその日を巻き戻されてなかったことになり、体が触れあえなくなり、妹が妹でなくなり、自分が誰にも認識されなくなり、ついには生死をかけたおそろしい二者択一を迫られることになります。なにかを解決したら次の問題が迫ってくるか、その解決のせいで新たな問題が巻き起こる――どうしてこんなにうまくいかないのだろうと嘆きはするのですが、それでも身を削り心が傷つきながら前へと進み続けられてしまうのです。
 シリーズの名前である青春ブタ野郎――

「自分のためには本気になれなかったくせに、美人の先輩のためになら、どんな恥もかけるなんてやつが、青春ブタ野郎じゃなくてなんなのよ」
 (青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない『青春ブタ野郎』シリーズ(電撃文庫)(p.307))

 そう呼びかけられる時、揶揄だったりすることがほとんどなのですが、応援でもあるのです。誰かを助けるために身を張れるような奴が、青春ブタ野郎でなくてなんなのか、と。
 そんな咲太が彼女とイチャイチャだけ出来るような安寧な日々に落ち着き、思春期を終わらせることが出来るのか――今の大学生編でおそらく仕舞いだと思いますので、かたずをのんで見守りたいですね。


 以上。シリーズを通した仕掛けも上々ですし読み応えのある作品でした。完結するまでずっと追っていきます。

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