恭は王を失い、国が乱れていた。国難が27年間続き、誰も頼りにならぬと十二歳の少女・珠晶は自分が王になるために蓬山に登る旅に一人出る――
少女の道程――門を越え、黄海を渡り、蓬山至り、麒麟に逢うまでを書いたド直球のロードノベルでした。
そこには何の衒いもありません。
珠晶は「自分がやるしかない」という外から見れば理解不可能な決意に基づいて最初から最後まで走り切ります。
「本当に行くのか?」
「行くわよ。恭には王が必要なんだから」
「でもって、それがお前だと言うんだな」
「そうよ。そう見えない?」
(P107)
「いいわよ。言っていれば? 王には大人も子供もないんだから。――どいつもこいつも、あたしが王になったら、覚えてらっしゃい」
(P151)
王になり、恭を救う――そこに私利私欲はなく、信じがたいことに献身しかありません。
少女の軌跡はまた省みるところもなく、だからこそ正しく通過儀礼となったのでしょう。
読んでいて、その眩さに震えました。
冒険小説としても一級であり、最初から最後まで楽しんで読めました。
――だから、思うのです。
彼女もいつか失道するのだろうか、と。
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