WHITE ALBUM2 幸せの向こう側 感想


 ポエムにしてラブレターです。
 私はこのゲームが好きだ、そう伝わると良いなと思います。
 

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 アイドルとの恋愛、三角関係、そして浮気が特徴的だった前作WHITE ALBUM
 異色であったタイトルに2として継いだ本作は、ある種浮気をメインとする精神的続編でもあり、そこに丸戸史明さんの特徴的なシナリオ展開が加わることで類を見ないほどプレイヤの胃を痛めつける怪作となっていました。
 丸戸史明さんの特徴的は数あるでしょうが、個人的にはキャラクタのコミュニケーションが巧みであることと伏線の妙とを上げておきます。キャラクタのコミュニケーションの障害と成立によって物語は進んでいき、隠された残酷で優しい真実に迂遠な経路で辿り着く、というのがよくある大枠でしょうか。
 その特徴はWHITE ALBUM2でテーマとされた題材との親和性が馬鹿みたいに高かったです。
 テーマは一語で言えば"絆"、もう一歩踏み込むと"誰も絆を捨てられない"。絆は何かを選ばないといけない場面においてポジティブにもネガティブにも働いていました。そして取り上げられるキャラクタにとっての絆とは何か、が問題ともなっています。
 テーマを最大限に活かすために、主人公たる北原春希も、二人のヒロイン・冬馬かずさおよび小木曽雪菜も、見事な造形をされていました。
 北原春希はルールに則ったことだけは巧みで、関わった人々を模範的に助ける性癖の、感情をなかなか変えられない堅物。冬馬かずさは類まれなるピアノの才能は兎も角として、孤独な青春時代から大人への精神的成長の片鱗を全く見せない独占欲に満ちた子供。小木曽雪菜は温かい家庭に育てられた素直な娘で、人の輪から外れるのを極度に怖がるぼっち恐怖症。厄介なたちの彼らは困ったことにそれぞれを心底好きになります。しかもその好意は、順序をつけなくてはならない恋愛感情における好きだったから、動けないし、動いたら何もかもが壊れてしまった――というのが『導入』。
 以降、普遍的だからこそ胸にくるテーマと、優秀な語り手と、見事なキャラクタが理想的に融合を魅せます。
 出来上がった結果は無残なことへ。
 延々と、どうして好きに生きられないのか、吐き気がするぐらい悩む代物となっていました。そして感情を揺さぶられるのが傑作の或る条件であるとするならば――未曽有の傑作の一つと言って過言ではないかと。


 さて、それではそれぞれの章ごとに具体的に感じたことを語っていくことにしましょう。


  • introductory chapter

 一幕目は学園生活。
 雁字搦めの始まり。
 おおよその感想は 初プレイの感想と大きく離れていません。よくもまあ、ここまで融通の利かない彼らの融通の利かない想いを見事に描いているなと感嘆してしまいます。 
 なお以前述べましたが、ここで私はかずさというキャラに恋をしました。

 彼女以外を6年ほど選択出来ないほど視野が狭くなるくらいには困った感情でした。
 でも、この文章の最後で結論付けるのですが、そこでそうして恋に落ちれて良かったな、と思います。

  • closing chapter

 二幕目は大学時代。
 かずさが抜け、春希と雪菜との近寄りも離れもしない凍り付いた距離がどうなるのか――というのが主眼。
 具体的にはサブヒロインと結ばれて脇それるのかどうかということになります。
 ここが多分、分水嶺となのかと。何せ雪菜を選ぶかどうかという片手落ちの問いしかされないので、まだ取返しがつきます。
 "また"雪菜を選ばない――という心が捻じれるような痛みに我慢する必要がありますが、雪菜とかずさとのどちらを選ぶか、或はどちらも選ばないのかという、天秤に載せるさえためらわれる選択ではないため、比較すればましでしょう。
 加えてサブヒロインの造形およびルートは丸戸史明シナリオなので当然非常に面白く、その選択もありだったとそれなりに満足出来ます。


 まず小春希たる杉浦小春。このルートが一番本作のテーマのミニチュアになっていました。恋愛関係に拘泥しても、彼らの性質からその他の絆/友情を捨てられないから、心底悩むという具合。非効率ではありますが、それはそれで一つの在り方かと。


 和泉千晶。ヒロインが演技の鬼なのですが、かなり歪なシナリオでした。初見では見抜くことが出来ませんでしたが、全年齢版でプレイしてみると、その歪みっぷりはかなりの領域に達しています。前代未聞に近いと言っていいかもしれません。褒めてますが、もうすっごい気持ち悪かった。彼女は春希と雪菜とかずさとが過ごした学生生活を演劇にし、歪んだ鏡として彼らの過去を映しだします。春希たちの関係がおかしいのは言うまでもないのですが、和泉のおかしさも割と天元突破していました。
 和泉が雪菜のコスプレをして雪菜として振る舞う見た目の気持ち悪さと、演技される対象(雪菜)の中に演技者(千晶)の自意識が漏れ出てきてしまう気持ち悪さ。それを見させられる不快感は衝撃的でした。
 ……あれ? 褒めているつもりなのですが。


 風岡麻理。信頼出来る上司との恋愛劇。かずさの影がちょっと見えたり不穏は不穏ですが、割と直球のラブコメでした。こういうの大好きです。それにしても、

 楽しそうで良いですね(真顔で)。


 そして小木曽雪菜。彼女を選ぶために今の彼女を見つめ直せ、というシナリオでした。他のサブヒロインとの好感度がそれなりにあり、彼女らに背中を押されることで、直視していなかった壁を乗り越え、雪菜の隣に辿り着く――。
 一つのクライマックスとしては非常に納得できますし、良くしてくれるみんなに囲まれ雪を見ながら、もう二度と彼女を離すものかと決心するのは確かです。
 ああ、でも、それは選択肢が出て選ぶのではなく、比較対象がいなかったら他に選びようがなかったのではないか――。そんな困った問いが浮かび、ゲーム中に"選べない選択肢"があることでより一層疑問は深まります。
 当然、それが最後の答えなのか、もう一度三人を揃えて、問い直されます。だから次が最終章を意味するcodaとなります。

  • coda

 三幕目は社会人。前述のごとく最後の幕。
 ひょうなことからかずさと再会し、春希の中の昔の思慕がよみがえるだけではなく、4年以上たってもかずさの中では恋愛感情がちっとも弱くなっていないどところか強くなり過ぎているというありえない状況のため、彼女のそばに居ることで雪菜を選んだ決心が揺らいでいきます。
 三人を揃えた問い直しなのですが、最初に出会ったようなフラットな関係から選ぶ訳ではないという前提がある意味厄介となっています。友人とか家族とか社会的立場とか縛るものが多くなりすぎました。婚約破棄とかぶっちゃけ賠償金沙汰ですし、浮気はする方もされる方も誰もかもが傷つきますし、恋愛関係以外の他者が傷つけたり、ちょっかいをかけてきます。
 でもそれこそが"絆"で、その絆を全て切って学園時代に戻るのは叶わぬ願いですし、結局のところ誰も叶わない願いです。
 容易に選べないのを承知の上でどちらかを選べという雁字搦めの上に、捨てられない絆がむやみと選択を重くします。七転八倒するのもむべなるかな。


 さて、この幕で一番の鍵となるのはかずさの母親の冬馬曜子の事情です。曜子は海外で有名なピアニストであり、学園生活前まではかずさを放任していたのですが、かずさがピアノの才能をもう一度発揮することで海外で共に暮らしてかずさをプロデュースすることになります。勝手と言えば勝手ですが、かずさもなんだかんだでピアノを通して再度結ばれた母娘関係を心地良いものとしています。しかしとある曜子の事情によりかずさは日本に戻ることになり、戻ってからも物語の終焉に向けて曜子は強く関わってきます。
 その関わりようは、選ばれても、選ばれなくても、かずさに否応なくやってくる一つの試練でした。
 個人的に彼女にまつわるイベントがこのゲームで最も心に残ったかもしれません。母娘の在り方の一つとして卑怯なぐらいに見事な話の展開を迎えます。
 あの号泣は本当に胸にきました。
 雪菜ルート。三人が答えを出した日の、かずさの結論への応えとしての滂沱。

 プレイする私も泣きましたね。
 本当に泣いたのは久方ぶりです。このシーンを思い返すのに結構長い時間をかけたのですが、何度プレイしてもここで泣くことになる予感がします。
 それだけ心に響くかずさの答えでしたし、それだけ心を打つ曜子の泣き様でした。


 恋愛感情が誰か一人を特別に選ぶ心だとすれば、沢山ある人と人との絆から一つだけにde-escalationしていく過程が恋愛です。
 それだけではとどまらないのは本作および丸戸史明シナリオでして、上記の号泣を筆頭に一つに選んだ絆から再び多くの人々と繋がっていきます。
 最後に雪菜を選び、春希と雪菜たちの周囲に起こる幸せ大爆発とか。
 最後にかずさを選び、春希とかずさと二人だけに閉じこもった最後に叩きつけられる忘れえぬものとか。
 プレイヤが御覧じろという三人のそれぞれの行く末なのでした。これ以上具体的に雪菜ルートとか、かずさルートとか、浮気ルートとかを語る気はありません。


 でも最後にそう、彼女の辿り着いた拙い答えだけをエコーしたい。

 愛している。

 ありがとう。

 子供だったかずさの自身が子供であることの肯定。その想いの、なんて尊い事――。
 

 ああ、私は彼女に恋をしたのだ、と。
 ああ、このゲームがプレイできて、なんと幸せだったかと。
 ……それ以上、WHITE ALBUM2 に費やす言葉ありません。
 

 以上。忘れえぬ傑作でした。


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