やがて君になる 佐伯沙弥香について 雑感

 やがて私は、沙弥香と呼ばれるようになる。
 そして私は、彼女を燈子と呼ぶようになる。
    (P211)

 佐伯沙弥香の恋愛遍歴――小学生で性に目覚めて、中学生で恋に目覚めて、高校生で彼女に出会う。その一連の顛末を、沙弥香の一人称視点で書かれています。


 何というか、まずですね。
 『やがて君になる』の外伝小説を『安達としまむら』『少女妄想中。』の作者が書くという企画が素晴らしい。企画を立てて形にした編集者はGJ。


 中身は当然ですが、大変結構なお点前でした。
 純度100%、沙弥香性(らしさ)に溢れていました。

 傲慢なことを言うなら、自分ができる人間なのだと早々に知った。
  (P9)

 という最初の一文から、最後の一文まで沙弥香は沙弥香であることを貫き通します。
 自分自身をかくあるように律せられる自制が幼い時から自然に生じており、その結果として自己向上に全力をかけられてしまう誇り高さと他者の影響の拒絶が彼女らしさの第一段階を作り上げていました。
 人として生きていくにあたって、シンプルな美しさを維持することは出来ず、成長せざるをえません。
 硬質だった在り方に罅が入り、ただただ自分にだけ感情と行為を振り分けることが出来なくなります。
 人を好きになり、他人に気に入られたいという欲求。――おおきなおおきな自己変容、もう二度と戻れない成熟と喪失の過程。少女の変わりようを、変わっていく自分を自覚している部分と自覚できない部分をひっくるめて自分の生き方として供述する一人称の視点から読んで知る。

 小さく溜息をこぼし足の上に握りこぶしを作る。
 すぐに追い抜く、と決める。
 そうそうこういうの、と訪れる向上心に安堵する。先輩と関わっている間に忘れてしまったんじゃないかと不安になっていたけど、自分を律することはちゃんとできた。
 私はまだ、大丈夫。
   (P203)

 一生彼女にしか知りえない、誰にも語れないことを、今現在の語りとして享受する。
 ――それはあまりにも官能な読書体験でした。


 以上。沙弥香という人物を取り上げて語り、語られた小説として完璧かと。
 この先、これからを本当に読みたいので、続編超希望。

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