百合小説短編集。
4編収録されていますが、最後の短編はそれまでの短編3編のエピローグ集みたいなものですので、実質物語は3つとなります。それぞれ筋は独立していますが、登場人物が緩く共通しています。それが本作のキャラと読み方に深みを与えていました。
- 『ガールズ・オン・ザ・ラン』。
全力で自走している時だけ目の前に見知らぬ少女が現れ、その彼女を追い求め続ける話。
奇妙な話で終わる筈が主人公の根性で良い話に捻じ込んだというか、理屈をすっ飛ばして走って、とうとう追いついてしまうのにちょっと驚きました。
――それに置いて行かれた少女がいて。
- 『銀の手は消えない』。
夢だと認識する世界で少女がさまよう話。
現実と夢の境が判らず、最後までふわふわと進んでいきます。
――それが視点人物の生き方で。
なお題名は恐らくロマサガ3の文章からで、中身と関係ないですがテーマとは関係あるようないような。
- 『君を見つめて』
子供の頃叔母の右目を失明させた『私』が彼女の店の番に通う話。
さて、どの作品が一つだけ素晴らしいかを取り上げれば迷いなく『君を見つめて』となります。作品内でも最も関係が判りやすくしっかりしていますし、百合として見ても魅力的な人物である叔母に少女が果敢にアタックする筋はほんと好きとしか言い様がありません。
その上で前までの作品を受けているからこそ、より登場人物たちの想いが心に響く深さを持つようになっていました。
『ガールズ・オン・ザ・ラン』で夢まぼろしに向かって突っ走っていった片思い相手に置いて行かれと知り、『銀の手は消えない』で彼女も夢まぼろしに実は住んでいたものの走っていく行き先がなかったと知り、今ここで「彼女」を追いかける少女が現れたのです。
「……好きになる相手って、選べるんですか?」
ふと気になったことを、叔母にぶつける。
一呼吸置いて、叔母が答えた。
(少女妄想中。(メディアワークス文庫)(Kindleの位置No.2351-2353))
ままならない感情に振り回されてきた人生だし、振り回されていく人生。
中盤以降、すれ違った「私」が「彼女」に与えた傷が何をもたらしたのか、その言語化も含め、ぞくぞくする言葉のやりとりと感情の行き来でした。
――願わくば彼女たちが幸せになるように、そしてそう願わさせられた時点で、この作品にぞっこん惚れたということなのでしょう
以上。重ね重ねになりますが『君を見つめて』がオールタイムベスト級ですが、それを存分に味わうために前2編をしっかりと読んで欲しいところ。
あと作者のHPにその後の話があるので興味があれば。>WEB小説|入間人間公式サイト
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