神と奴隷の誕生構文 感想

 一つの大陸に有角有翼etcの種族がひしめき争う惑星エナ・ガゼ。有翼種の国ダラィオンに攻めこまれ、有角種の国ロケィラは滅亡寸前だった。ロケィラ最後の皇子セレィが逆転の為に海戦に打って出たがそれも敗北しようとしていた。しかし、あわやという瞬間、若い神が舞い降りてセレィを助けた。そして若い神は彼女がエナ・ガゼを統一するよう導いていく。エナ・ガゼという世界がいずれ侵略してくる上位世界に対抗するために――


 という冒頭の異世界戦記物。
 まず言っておきますと、戦記物としての面白さはそこそこ程度でした。戦争を終結させる統一戦争を行うために最後の皇子と若い導神とが手を結び、策を弄して劣勢から挽回する描写は悪くありませんでしたが、策/戦略・戦術自体の質は疑問符がつきます。それに戦争描写もいまいち迫力がありません。


 しかし世界間移動と侵略が重要なキーワードになっている世界設定には大いに目を惹く物がありました。異世界への侵略を行う共同体《発展界》というのが大きなくくりとして設けられ、侵略の仕方は神話・御伽話で文化を侵し、物理法則《フィジックス》を歪めて世界間の差異を消失させながら行われ、結果として先住民の八割は殺されるという苛烈なものです。要は世界の共同体によって極北に推し進めた植民地政策が行われているということですね。
 そしてこの世界観でいう神とは世界間を移動する越境者《メタフィジックス》のことあり、まさに他世界に神話・御伽話で《神》として名前を残すこともある存在です。神は発展界とは別個の個であり、発展界に立ち向かうことも、協力することもあります。で、この小説は地球生まれの神が発展界に対抗しようとするものです。
 設定を通して植民地政策に対する批判などなどの強い思想が感じられて、そこはかとなく異様な空気が漂っています。そういう小説もたまになら悪くありませんし、偏った思想があると感じさせることが出来た手腕があるのかもしれません。判りやすく偏ったベクトルによって判りやすい批判をするために“この本の世界”が作られたと考え出すと作品内の批判と合わせてメタ的に趣深いのですが、置いておきましょう。
 兎も角も、この小説の設定は気に入りました。
 ああ、あと神同士の戦闘はど真ん中に直球でキマした。その戦闘は異世界間の戦争を個人に移したようであり、固有の世界観/ルールの張り合いによって決着します。よくある、確かによくあるのですが、こういうの大好きですし、この小説の設定内にきちんと消化されていて、違和感なく固有の世界観が神の能力と相成っていました。例えば主人公の導神のイメージは鎖。

「――それがきさまという神の死生観か」
 (P241、本文傍点)

 そうなった経緯とそうある精神の歪みといったらもう――、欠点を補って余り得るほどわくわくしました。ここらへんは偏った苛烈さがいい方向に転がっているのだと思います。


 あと戦争下の人物劇はまあまあ面白かったです。導神は世界――“地球“を滅ぼされた元人の身が神であり続ける重荷を担い、皇子は未熟ながらカリスマを発揮しと、不完全な青年たちをよく書けていました。


 以上。有角有翼の大戦争固有結界神の能力etcどこかで見たようなイメージの集合ですが、先を読ませる力に溢れていました。これから戦術と戦略が練られて、設定の説明の仕方が巧みになって、要所でより格好良い台詞を吐かせて大見得を切るようになったら、どんどん面白くなるんじゃないかと期待しています。

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