千と万1 感想

 サラリーマンの父親・千広と、女子中学生・詩万との父子家庭を描いた日常物の漫画。
 父親はちょっとお調子者だがいたって普通のサラリーマンであり、娘も少し反抗期気味だけどいたって普通の女子中学生です。そんな二人が子供が少しつんけんして、父親がはしゃいで、なんとなく上手く回っていくという家庭の風景が繰り広げられます。
 たとえば娘が隣で寝ころんでテレビを見ているよころでネットサーフィンをしたり、初めてピザの配達を電話で頼むために緊張しているのを冷やかしたり、たとえばベランダで植物を育ているのにちょっかいかけつつ手が汚れているために娘の鼻をかいたり、娘の鼻を掻いたり(大事なことなので繰り返しますが)、たとえば親戚の叔母さんが遊びに来たり。むず痒い日々が続き、見ていて、ああこういう家族も良いなあと思わさせられます。


 それにしても"普通の女子中学生の娘"――その、なんと蠱惑なことか。
 言葉を重ねるのにやぶさかではないのですが、口絵のカラーの話を読めば事は早い。娘は夜起きて、ちょっと困った顔になり、携帯電話で自分の股間を照らします。その股間自体は見えませんが、何が起きたかはその後洗濯に言ったことからわかります。
 曰く、初潮。
 それでふらふらになる可愛さを満喫しつつ、転げて食事に頭を突っ込むまでに心が躍ります。そうか、これが初潮なのかと。あとはそうですね、ズボンをはかずに洗濯機の前に立っていたりだとか、デリカシーのない父親にいらっときたりだとか、うん、可愛いなあ。
 このファーストインプレッションでメロメロになること請け合いです。
 付け加えれば関谷あさみが描いているのです。体が発達していない、心が発達しかかっている女性――つまりは女子中学生あたりを描けば5本の指に入る作家が描いているのです。生々しくない吸引力という、まあ漫画での中学生物の臨むべき性質を最大限に発揮していました。本当に一挙一動に目が奪われます。むっとしたり、喜んだり、悲しんだり、全身全霊が魅力に満ちています。例を挙げたいのは山々なのですが、どれか一つに選べないのも確かで。個人的にもっとも胸にズッキュンと来たページを引用します。父親が勝手に自分の日常を匿名ながらブログに書いていたことに憤った顔になります。
 
  (P90)
 そして父親が平謝りして受け入れる顔が下になります。
 
  (P100)
 女子中学生に幸いあれ。願わくば成長しないことを。そしてその願いを置き去りにして健やかに未来に走っていくことを祈っています。


 以上。傑作でした。最後の話で示唆される淡い恋の始まりに壁パンしたい気持ちを抑えつつ、次の巻を楽しみにしています。

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