虚構推理 スリーピング・マーダー 雑感

 ホテルグループの総帥から遺産相続の優先権を決めるために子供らに一つの問題が課せられる。「23年前正体不明の強盗に殺された妻は実は自分が殺した。その方法を推理せよ」という課題だったが、彼が秘めていた真相は『妖狐』に殺人を託したという非現実的なものだった。
 子供たちが現実的な観点から父親が殺人犯だという真実を言い当てられるのかの審判は岩永琴子に託された――


 一つ目一つ足のおひいさま・岩永琴子が妖怪に纏わる謎を解決するミステリシリーズの最新作。シリーズのコミカライズのオリジナルシナリオを小説化した作品となります。
 展開は多人数での推理劇物の定番を踏んでいました。一つの殺人事件に対して殺人計画が複数浮かび上がり、どれが正しいのか妥当性を競っていきます。
 本シリーズの肝である、妖怪の力を借りた真実には辿り着けないし表ざたにならないように、誤っているけど整合性があり納得しやすい解釈を構築するロジックと、本作の展開とは巧い具合に噛み合っていました。
 その推理劇の噛み合わせの妙そのものに掛けられたトリックはシリーズに慣れきっていればいるほど、『まさか』というどんでん返しでした。
 決して辿り着けない真相――そう殴ることがあるよという前置きがあるからこそ驚きの隠し方でしたし、綺麗なアンフェアかと。
 全体的に見れば小ぶりなミステリですが、佳作としてなかなか楽しめました。


 しかし例え小品でも本作は間違いなく城平京作品であり、やはり名探偵の業へと回帰します。

「でも岩永は公正です。何に基づいているかはわけあって話せませんが、彼女はその行動原理と信念を不純や不備、気まぐれで曲げることはありません。そうする発想すら浮かばないでしょう。たとえ親類縁者、自身にとって大きな不利益になってもです」
  (虚構推理 スリーピング・マーダー(Kindleの位置No.3277-3279))

 壊れた天秤/釣り合わせ方を間違える在り方はよきにせよ悪きにせよ物語を先へと進める推進力となることがありますが、決して間違えない天秤は準備が整えば物語を終わらせる役目しか果たせません。
 では、彼女にとっての不俱戴天の敵とは――と、今後なっていくのでしょう。
 まだまだイカレたロジックで楽しませた欲しいものです。


 以上。あくまで単体で見れば佳作ですが、自分の好みの作品でした。

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