桜吹雪〜千年の恋をしました〜 感想

 主人公・柊一成は意に沿わぬままセレブな花宮学園に入学した。その学園は枯れない桜に覆われ、かつて育てられ捨てられた名家を思い起こさせる居心地の悪い場所であり、なおかつ寄宿するようになってから奇妙な夢に惑うようになった。居心地の悪さを収めきれない折に、彼はふとした巡り合わせで学園祭委員長と出会い、とある打算の元に学園祭実行委員になった。そして共に委員になった少女たちと共に学園祭に向けて尽力する――


 という感じの学園物。原案が日野亘氏ということで、一筋縄ではいかない作品になっていました。委員会に集まった面子全員が一致した奇妙な夢をみるとか、それに符号した出来事子が起きるとかいう風に外枠は前世物になっているのですが、それで収まるような単純な作りではありません。というかむしろ、そういった外枠が一番なおざりにされてしまったというか、何と言うか……、いやまあ一旦置いて置きましょう。

  • 総論

 学園物として美少女たちとキャッキャウフフする学園生活は――いまいち描ききれていませんでした。攻略ヒロインは同じ学園祭実行委員の桜森紅紗、天蕗雪花、宮乃紫苑、麒麟寺向日葵の4名なのですが、誰も彼もが魅力的だったためにかなり惜しい事態になっています。委員会の仕事に忙殺される日々を丹念に描いており、それを通じて仲良くなることはなるのですが、仲良くなって結ばれてイチャイチャしだした辺りでもう物語の結に向けて突っ走ってしまいます。残念極まりありません。例え少しばかり間延びしたとしても、もっとこのヒロインたちとの何でもない恋人としての日常が見たかったです。
 

 学園祭に関して。

 さあ、実行委をはじめよう。

 本格的な物語の始まりである、実行委員が集ったシーンは青春めいて良かったです。夜空の下、テラスから学園を見下ろしながら、誰も何も言わないまま、これからの行動を共にすることをそれぞれ自覚しただろう風景。それは何と美しいんでしょうか。以降の行動は忙しそうに見えはするものの、不効率であろうと、始まりのシーンが色褪せるものではありません。
 それで、ここからが肝。
 実行委は生徒会と根深く対立するのですが、その対立の仕方がかなり上手く描けていました。特に最終ルートである紅紗ルートで顕になるのですが、要所要所で策略と裏切りが良い感じに顔を出し、それぞれを担った登場人物の覚悟と合わせて、実に甘美な殺伐とした雰囲気が出ていました。詳細はネタバレになりますので省きますが、各自目的がはっきりしていますし、反する相手ならどのような行動でも取ろうとする意志を持っているため、行き当たりばったりではなく、失敗しようとも悔いようとも――間違いはしません。そういう訳なので最終的に誰がどのような形で立っているのか常に気が抜けず、良い緊迫感がありました。


 前世に関して。共通ルートや3ルートでは伏線ぽく存在しますし、プレイ最中にはさも重要そうな設定に見えます。………………………でもぶっちゃけ、明かされる場面では10行ぐらいでさらっと説明されるだけなんですよね。『Routes』や『Air』までやれとは言いませんが、説明不足なのは間違いありません。大いに不満です。


 以上の因子によって組み上げられた物語の総じた印象は寸足らず、というもの。プレイ後感は微妙。謀略的な要素は高く評価しますが、それは味付けです。大事な所の分量があまりにも足りないため、物語に浸りきれず、納得出来ませんでした。

  • 個別ルート

 麒麟寺向日葵。初対面で「殺す」と言ってくる電波キャラで登場し、以降は洒落の効かない一本気な真面目キャラとして活躍します。が、個別ルートに入ると真の顔――淫乱若妻を存分に披露します。シナリオの処理はそこそこでしたが、空気読まない淫乱さは新鮮でした。


 宮乃紫苑。全方位への毒舌家。似ている所では『家族計画』の青葉かと。似ている例に漏れずデレたら鬼のようにデレます。が、分量が少なかったです。もう少しそのデレデレを堪能したかった所。


 天蕗雪花。いわゆる一つの、完全無欠の甘やかしお姉ちゃん。人気絶大なのですが、主人公を前にすると駄目な人になります。そのダメっぷりはかなり甘々で、かなり心にキマした。起こしに来たら、

 「お……おはようちゅー?」

 などと可愛いことをほざき、少しでも危ないことをすると心配し、ヤンデレに疑われるとヤンデレの定義を述べて否定し、挙句の果てには言うに事欠いて、

 「愛なの、愛の前には全部が正当化されちゃう」

 とのたまいます。素晴らしく周りが見えてないお姉ちゃんです。公衆の面前で、

 「大きな声で、言って。大きなおっぱいが好きだって」

 とにこやかな笑顔で迫って来るのもチャーミング。
 シナリオはやり取りで下手に心理的な小細工をせずにラブラブに終始したのは好印象です。紅紗や紫苑が記憶に残る台詞を吐きますし、キャラをあますところ無く使っていました。このルートでも結ばれて何も考えずにいちゃいちゃするシーンがもう少し欲しかったですね。や、朝フェ○で起こしてそのまま致して遅刻とか燃えるのも多いですし、贅沢言い過ぎなのかも知れません。
 教訓としてはカーテンを閉めてセックスしよう!、そんな感じで。


 最後、桜森紅紗。いい年上ロリであること以上に説明がいりません。付け加えるなら意識的なパンツを見せたりする隙と、無意識に弱みを見せてしまう隙とが混在する割合が奇跡のようでした。印象的な声で翻弄されるのが楽しいったらありゃしません。
 シナリオはロックが掛かっていて、一応全ての謎が解決するものになっています。上記通り色々と不足していますが。


  • その他

 文体は癖がありました。単語の選択に工夫を凝らしているのにも、幾重もの意を含ませた洒脱な会話が空すべりせず成立しているのは感心しました。笑いのセンスがないのと、お約束に含羞を見せてから感情の赴くままにお約束だろうと走らせる展開の野暮ったさという問題はありましたが、概ね好意的に受け取りました。


 絵は桜沢いづみ最高の一言。紅紗たんはあはあでも代替可能です。良い年上ロリでした。
 声は合っていました。特に紅紗たんのダウナーな声には癒されました。
 システムはNoDVDパッチが出ていますし、特に問題ないかと。

  • まとめ

 以上。出来はよくありませんが、それで済ますには何かがある怪作でした。例えて言えば永遠の未完の大器。学園謀略物が好きな方で絵が気に入った方にお薦めします。

  • Link

 OHP-Silver Bullet
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