一億年のテレスコープ 雑感

 望と名付けられた少年はその名のごとく”とおくをみる”ことにはまり、天体観測に造詣を深めていく。やがては星を股にかけた観測方法を提案し、仲間と共に宇宙へと飛び出していく。それは思いもかけない壮大な旅となった――

 と始まるSF小説
 地球の地べたで遠くを観たいと願った少年の想いから始まり、あれよあれよと距離的にも時間的にもとんでもないところまで飛んでいきます。
 宇宙に棲む多彩な存在と接触して観測し、私たちの旅路に巻き込んでいき、宇宙の観測の輪を広げていくのが活き活きと描写されます。途中で出会っていく異星や異星人はそれ単体で何作もかけそうなぐらいのアイディアが詰め込まれているのですが、それ単体が目的ではないと長いスパンを軽やかに流していくのはこれぞ気宇壮大なSF小説だという在り方で好感度高かったですし、書かれなかった未知を思うのもまた一興でした。

 そして、その観測の果て、とおくをみる最後の光景になにがあるのか――。
 
 あまりにも長すぎる伏線回収の妙というか、最初にそもそも言及されていた梯子をかけ続けるイメージの美しい帰結というか、良いものを魅せてくれたというおしまいでした。
 作者が望まぬところではあるかもしれませんが個人的には『虚無回廊』の精神的後継者と呼びたいところ。


 強いて難点を述べれば、望が”それ”と話す描写をされた時点であまりにも容易にクライマックスとラストの予測がついてしまうことですかね。読めても別に質を損ねるわけではないのですが、驚きが欠けてやや残念でした。


 以上。SF小説として快作でした。本来なら年間SFベスト1クラスですが今年度は粒ぞろいなのでどうでしょうかね。

  • Link