裏世界ピクニック4 雑感

 理解のできない恐怖をあおる異形と異常現象が跋扈する裏世界を女子2人組が探検する百合ホラーSFの第4巻。

 片割れである鳥子の冴月を追う物語にひと段落つき、今度は空魚のパーソナリティを揺るがす恐怖が多くなっていました。
 くだん、平ぺったい手をした隣人、赤い人――空魚<そらを>の身の周りに増えてきた怪異は知らず知らずのうちに的確に過去をえぐっていきます。
 しかしこれまでも恐ろしいものに出会い冒険しながら2人の仲が深まっていったように、今度は揺らぐ空魚に対し迫る鳥子という形でより互いへの想いが強くなり、そして決定的に対し方の在り方が変わっていこうとします。こうした百合的な要素がこれまでも充分以上だったのが、それにもまして濃かったです。
 本当にご馳走様、という感じ。
 ベッドの上で小桜に抱きつかれた空魚をしらーとした目でなじる鳥子とか、一緒に素っ裸で温泉に入る嬉し恥ずかしドキドキとか、一緒にラブホに泊まるとか(ただし裏世界の廃墟)、これでもかこれでもかとにやにや出来るイベントが繰り出され、お腹いっぱいでした。
 それにしても空魚の面倒臭さ――臆病さ、パーソナルスペースの広さ、大切なものへの独占欲と偏狭さ――がそうした鳥子との関係性が変わってしまいそうな決定的になりうるイベントを重ねて、切り崩されていく過程を目の当たりにするのが愛おしい。
 貴女しかいないと空魚は心中で繰り返すのですが、その仲の中身をどういう色合いにするかは空魚の面倒臭さを料理する鳥子の行動にかかっていて。
 だから、クライマックスを読んで叫ぶ訳なんですよ。
 観たいものをこれ以上ないレベルで魅せていただきました。
 

 なお最後に最低な疑問なのですが。

「でも、やっぱり不思議。普通に生活してたら、お風呂ってプライベートの中でもかなりプライベートな空間じゃない。これに匹敵する場所って、トイレとかベッドくらいしか思いつかない」
「トイレはそうだけど、ベッドも?」
 たいした考えもなく疑問を呈したら、鳥子ばかりか小桜まで、両側からまじまじと見つめてきたので、私はうろたえた。
  (裏世界ピクニック4 裏世界夜行(ハヤカワ文庫JA)(Kindleの位置No.1853-1857))

 え、ひょっとして、貴女、乙女なのは兎も角、自iも・・・・


 以上。今回も百合を堪能しました。次にどのように素晴らしいものを魅せてくれるのかまた楽しみにしています。

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 <既刊感想>
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