スペクトラルウィザード 雑感

 魔術師とそのギルドはテロリストに認定され、科学技術で武装する騎士団に狩られていく。魔術師は激減し、魔術ギルドは崩壊した。数少ない魔術師の生き残りであるスペクトラルウィザードは市井に隠れて密やかに生きていこうとするが――


 分類ゴーストメイジ、ゴースト化し何でもすり抜ける≪壁抜け女≫、魔術師・スペクトラルウィザードを主人公とした短編集。
 ジャンルとしてはダークファンタジーになるでしょうか。狩られる魔術師たちに共通するある種の諦念と自棄、狩る科学者の真に力ある魔術師には叶わない絶望と恐怖。ポップな絵に彩られながら、ハードな世界観で重苦しい物語が繰り広げられます。
 特にメインを張るスペクトラルウィザードはあまりにも強大過ぎる力を有して殺される術が――おそらくは未だ――ない存在なのですが、孤独と諦めを身にまといながら、魔術師としても人としても繋がりを求める指向を捨てきれません。大事なはずの魔術師の仲間や魔術師の在り方は市井の人の中で生きていくために裏切り、一般人や物は魔術師の力や考え方を捨てきれないため壊し恐れられる、どっちつかずの存在で、独りで生きていくだけで身を削られる。ぬいぐるみと部屋で一生ふて寝しようにも、周りが許さず騒動に巻き込まれ、常に傷つく。
 そのため基本的にはどの短編も苦い味がするのですが、それでも――それでもなお彼女のどこか捨てきれない希望の匂いが目を心を離してくれませんでした。


 どの短編も見所はありますが、白眉は書下ろしの『リレントレスオーバータワー』。
 短編ファンタジー漫画としてオールタイムベスト級に上げたい一葉でした。
 突如として巨大な塔が出現したと物語は始まります。その塔は只管上に伸びていき天を穿っていく、新たな魔術書による世界を滅ぼす魔術だった、と。

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 どのように世界を滅ぼすのか、どうして威力が弱いのか、そしてスペクトラルウィザードはどう止めるのか。
 これまでの世界観と空気の下に、そうくるかというロジックを成り立たせ、ページをめくるドキドキが止まりませんでした。その胸の高鳴りを言葉にすればセンスオブワンダーが近いでしょう。
 こういう作品に出会えて幸せというレベルでした。


 以上。満足の行く作品群でした。恐らくこの作者のセンスが好きなので、他の作品も追ってみようと思います。

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 作者HP-模造クリスタル - The Imitation Crystal

 

スペクトラルウィザード
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