女子高生・十川一華は父の死により5兆円を相続する権利を得て以来、遺産の相続権を巡って親戚に命を狙われることになった。亡き父に雇われた家政婦は事件を発生前に未然に防ぎ同じトリックで仕返しする探偵"トリック返し"を一華のボディーガードとして呼び寄せた――
と始まる新本格ミステリ。
連作短編であり毎回一華を狙う犯人は明らかになっている倒叙形式です。犯人の三人称視点で完全犯罪を達成するためにどのような計画が立てられたかを"トリック返し"によって暴かれていきます。
主人公が矢継ぎ早に親族からの殺人計画の標的となり殺伐とするはずなのですが、なんと書きぶりは全体的にギャグ調です。
トリックも凶器も突拍子もない殺人計画の数々。結構な頻度で、まじかそれは、いや迂遠すぎで成り立たないだろと突っ込みたくなる人工的な仕立ては逆にびっくり箱のようで、次に何が出るか楽しみでした。
或いは"トリック返し"の芝居がかった登場や仕返しシーン。
虚無……僧……?
深編笠で顔を隠した、何者かだった。
しかしよくよく見れば、その首から下はスーツ姿。僧侶ではない。単にスーツ姿の人物が、竹籠を引っくり返したような深編笠を被って顔を隠しているだけだ。
(探偵が早すぎる 上下合本版(講談社タイガ)(Kindleの位置No.3738-3742))
毎回毎回顔を見せずに犯人を成敗するどこまでも鮮やかなダークヒーローっぷりで、ひゅーっと口笛で冷やかしたくなるくーるさでした。
ただ前半はそれでもおとなしかったのです。
事前に防いでやり返すルールに慣れた後半、四十九日の法要に至って、怒涛の殺人計画ラッシュが巻き起こります。そして"トリック返し"がじゃんじゃん容赦なく止めていく展開は半笑いしっぱなし。
こういうのを出来るのは新本格ミステリだけという悪ふざけ具合でした。
好きなの?と聞かれれば、大好きですね!、という答えしか返せませんね、ええ。
なお百合があるということで読み始めたのですが、うーん、そちらはまあそこまででもないかなあと言うレベルだったかと。
以上。バカなミステリが好きなら間違いなくお薦め。
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