airy[F]airy 感想

  • 総論

 土曜日がない世界で火曜日を守るために“Eremita”というカードゲームで妖精と勝負する“火曜の墓守”エルモ。養父にして前代の“火曜の墓守”アルマンドが失踪したことで、エルモはその責務も実際の教会の墓守もサンタリキアの復活祭で聖霊を集める役も受け継ぐことになった。役目を果たして行くうちに様々な変化があり、真実を知り、そして少女たちと仲良くなって行く――

 
 という感じの内容。
 まず“Eremita”による曜日を賭けた勝負について。一日を賭けた勝負が人知れず行われ、何も無いように終わり、一見何も無かったように見えるのは、世界の片隅での世界の守り方として確固として成立してるように感じました。それにここでは世界を賭けた勝負の確かさとは逆に、敗北しても恐らくは何も無かったかのように過ぎて行くことになるだろうという瀬戸際の実在感の無さがあり、そのことで薄ら寒さが加えられているように感じました。……これはまあ考え過ぎなのかもしれません。


 また妖精が存在する世界設定なのですが、妖精という存在が効果的に使われていました。きまぐれでのんびり屋という妖精そのもののハラペーニョ&タベルノは登場すると和みましたし、冷静で理性的で面倒見の良いオットリーノ先生は頼れる存在として要所要所で話を締めていました。それに詳しくは言えませんが、人に近い姿格好をした妖精が大事な因子として働くことになります。

 
 以上のような世界設定に乗っかった物語なのですが、筋には大きな起伏がある訳ではありません。田舎街での一幕を描いたファンタジーの小品という印象を受けました。


 ヒロインは、身体が弱いけれども芯の強い幼馴染のコレット、外の街から来た人懐っこいヘレン、旅芸人のモニカ、かつて行き倒れていたのを助けられた恩のあるもう一人の幼馴染のサラの4人。誰もが性格と容姿合わせて好感を持ちました。きついキャラクタがなく、バランスが取れていたのが良かったのかもしれません。
 恋愛要素はあっさりめですが、彼女たちと恋に落ちて、彼女たちと生活して行くようになる流れが上手い具合に話に溶けていました。無理にいちゃいちゃされて間延びするよりもすんなりと全体を受け入れることが出来ました。主人公の性格もあり、爽やかな少年少女の恋愛物になっていたと言ってもいいかもしれません。


 まとめると恋愛に特化せず、世界の謎に特化せず、バランスよく彼らの生が描かれていたなー、と。


 マイナス点を述べると第一に残念だったのは締め方です。コレットルート、モニカルートの締め方の唐突さとぎこちなさは大減点。余韻も何もなく、ぶっつりと切れてしまいます。他にやりようがあったと思うのですが、何ででしょうかね。
 第二は伏線の回収。特にアルマンド関連はほぼ回収されていません。ブラックボックスに放り込む要素ではないと思うので何らかの救済が欲しいです。
 それらのマイナス点によって全体的には完結していないという印象を受けてしまいました。

 
 最後に題名に付いて。airy‐fairyという単語自体にはairy‐fairy の意味とは - 英和辞典 Weblio辞書 にあるように

 1 優雅な,美しい.
 2 《口語》〈考え・計画など〉非現実的な,空想的な.

 という意味があります。その意味に加えて、[F]を囲う事でこちらの世界の空気とあちらの世界の空気の境界上での物語であることを強調したのかな、と妄想しました。

  • ヒロイン各論

 ネタバレは反転してあります。


 コレット。身体が弱く車椅子で移動するのですが、人に手を煩わせないために気を張ります。だから妖精界への行き方を模索する事が判明したときはおっと思いました。身体が弱いからこそ、別の世界へ行くことを望む暗い方向へ行ってしまうのかなあと。しかしそんなことはなく――となり、むしろ決断を下す姿さえ見せずに、自らの生を継続して主人公と共に生きて行こうとする姿勢に心が動きました。悩んだかは彼女だけが知っていれば良いことで――
 ただやっぱりエンディングは微妙でした。上手くまとまっているとは思うのですが、もにょもにょしました。


 ヘレン。人懐っこく、色々と可愛かったです。弁当に失敗して“う゛っ”という顔でスプーンをくわえたり、

 「はぁうーぅ、し、失敗……」

 とキュートな姿で現れてみたり、気が抜いて真の姿を見せたり、体当たりで好意を伝えてきたり、最高でした。
 それに声が抜群に合っていて、可愛さが大幅に増幅されていて、転がりまくりました。

 「ふぇー?」

 などの抜けたため息なんか、もうっ、堪らん。
 ここでさらっとネタバレするとヘレンは人間と妖精のハーフです。そして実は主人公の“火曜の墓守”のパートナーでもあります。妖精になるか、人間になるか、どちらを決断するか、が肝になります。妖精になると、パートナーでい続けられますが、代わりに村で一緒に住むことが出来なくなります。人間になるとパートナーからは外れますが、村で一緒に住むことが出来るようになります。そして、

 「ボクはどうなのかなー? きっと幸せなんだろうなーって考えるけど、『これが幸せっ!』だって断言出来るものが思いつかないの」

 これがヘレンが明かす内面。この彼女が実感出来なかった本当の幸せを得た場所――主人公の横にいるためにどう在るのか。

 「うん。これから、少しずつ時間をかけて……ボクは〇〇に変わっていくと思うの」

 そして選ばれて、その選択に決定的に間に合わなかった主人公のこれからの決意にも震えました。
 またエンディングでの新たな人生――旅の始まりを予感させる締めは最高でした。
 という事で、このルートは大変素晴らしかったです。


 モニカ。トリックスターが無自覚な押しにどきどきする様が可愛かったです。旅芸人の一箇所への定着への躊躇と、とある理由による主人公と住むことへの躊躇がごっちゃになったのも良かったですね。だから定着するかどうかあやふやものを確かにするエンディングは悪くはないのですが、導入が微妙で今ひとつキレの悪いものになっていました。
 なおこのルートではアルマンド失踪の原因が明かされるのですが、理由まで追求されません。他のルートでもそうですし、上記のように結局判らずじまいとなってしまっています。


 サラ。母親が主人公とサラの接触を極度に嫌っていて、その目をかいくぐって逢瀬します。会いたくて話したいのだけれども、それでいてお互い奥手で好意を素直に表せない恋物語にキュンキュンしました。他はおまけというか、勢いで。
 後このルートで一時主人公を引き取ったガスパーレ村長の主人公への思いが判り、温かみが増しました。

  • その他

 絵は笛さんなので問題なし。小生物や小道具も温かみがありました。


 エロはそこそこ。全クリすると回想シーンから3Pなどのおまけが見られるのですが、合わせてようやく並の量です。質はいちゃエロの雰囲気は出ていましたが、あっさりめです。


 音楽は特に無し。


 声についてですが、今回私に取っては珍しく声をほとんど全て聞いていました。ヒロインたちはコロコロ転がるような喋り方で、村長のガスパーレはおおらかな震える喋り方というように、キャラクタにぴったり。良いお仕事でした。

 
 システムは普通。新規なものとして会話が重なった場合はウィンドウに表示されず音声のみ再生される工夫があったぐらいでしょう。

  • まとめ

 以上。ヘレンルートは出色の出来でしたが、総じて見れば佳作でしょう。
 が、やはり前述したようにこれでお終いと言われると落ち着きません。続編が製作されて欲しいですねー

  • Link

 OHP-RococoWorks


 


 ・参考リンク
 いまじならっく | Eremitaルールまとめ
 overkilledredさんのairy[F]airy 〜Easter of Sant’Ariccia〜の感想