よふかしのうた1 雑感

 深夜、14歳の夜守コウは静まる町へと一人繰り出す。ぼんやりとした理由で不登校になった彼は、そこで吸血鬼の少女・ナズナと出会い、彼女に恋をしようと願うようになり少し刺激的になった夜を重ねていく――

 ジャンルとしては吸血鬼物の亜種にして、青春物のある種の王道でしょうか。
 各話のおおよその流れとしては、夜をだらだらとしながら最後は血を吸われるという感じ。
 吸血鬼の少女を夜に探し、探され、共に飛び回り、どうでもいい過去を語り、笑い、遊ぶ。
 夜に少人数で行動する昂揚、美しい吸血鬼に出会った非日常感、「血が美味い」と選ばれた優越、闇に沈む世界で失っていたかそれまでなかった生きる熱量――恋を!――を得ること。
 なにもかもが混然一体となり、ひそかにうきうきする空気が生み出されていました。
 それは自分の中の少年が夢見る光景の理想の一つであり、憧憬をも覚えるものでしたね。

 そしてですね、途中で出てくる腕時計型トランシーバーがひっじょーーーーに素晴らしいんですよ。
 150m範囲内であれば1対1対応で通話出来るガジェットで、ナズナを探す目的に最初は導入されます。
 ただ5年前にもう1対購入していており、片方を隠し、手に取った見知らぬ誰かと連絡を取ろうとした独り遊びで紛失していたという笑える悲しいエピソードが披露されます。
 そして、捨てきれず取っておいた残りのトランシーバーが5年後のいまに初めて鳴ります。

 f:id:pub99:20191215012509j:plain:w400(kindle No.144)

 誰かが手に取り、保管し、なおかつ携帯していたのです。
 では、誰が?
 このガジェットの使い方だけでもエモ指数が激高なのですが、ここで登場する幼馴染がですねえ!、大変良いんですよ!!
 夜に吸血鬼と戯れ家に帰ろうとするコウと、朝4時に起きてこれから昼の学校に向かおうとする幼馴染との、夜が明けようとする前の束の間の会話――とか吸血鬼とは違う方向で胸キュンキュンじゃないですか。
 しかも幼馴染にはかつてなかった影があり、その5年の空白と、夜に生きようとするコウに今あえて関わろうとする謎で、気にかかると。
 「だがしかし」とは違うベクトルの、天下逸品の幼馴染を御覧じろ。


 以上。素晴らしい出だしでした。今後も「少年の夜」を魅力的に描き続けられることを期待しています。

  • Link

 WEBサンデー|よふかしのうた■コトヤマ

 よふかしのうた(1) (少年サンデーコミックス)
B07ZVQTS5L