マルドゥック・スクランブル 圧縮 感想

 観てきたので感想メモ。

  • 原作について

 マルドゥック・スクランブル3部作は大好きです。大好きなのですが、あの熱気、あの密度、あの痛みはそうそう頻繁に読み返すものでもありません。疲れてしまいます。通して読んだのは2回で、最後に読んだのはヴェロシティが出る前ぐらいですから4年前のこととなります。というか、もう4年前なのですか……いやはや。
 なので細かい筋を忘れた状態であえて読み返さずに劇場版に臨みました。

  • 大まかな感想

 66分という上映時間は観る前は短いんじゃないかと危惧していたんですが、幸い杞憂でした。バロットが捨てられ、再生し、戦う力を得て、戦う意志を持ち、傷つきながらも得られなかったものを取り戻しに行く――彼女の軌跡の描写には間延びした所がなく、片時も目を離せません。“圧縮”という副題にふさわしい時間の使い様でした。
 ただ速さに一つだけ引っかかる所がありました。原作では冲方丁の文体によって何も判らぬまま「兵隊になりたくない」と言っていた傷ついた少女の内面を描かれていたからこそ、ウフコックを受け入れる過程にダイナミズムがありました。しかし、この劇場版における事象の移相のスピードと同期して内面が早送りされると流石に唐突な感がありました。ただ急激に形成される依存が後々に繋がっているので、わざとなのかもしれません。


 絵は流石劇場版という感じのクオリティ。加えて大雑把にマルドゥック市のイメージが掴めるようになっていました。コンソールなどからテクノロジーが進歩しているのは判りますが、インフラにはテクノロジーが使われた進歩した部分と全く現在と変わらないスラムのようなニ面性があり、少し外れれば川原があるような混在した近未来の大都市――と。これが映像の利点であり、文章よりも都市のイマを直感的に理解しやすくなっていました。
 

  • ウフコック

 ほぼイメージそのまま。気のいい金色のネズミでした。チョーカーやハンドルなど多彩な変形のどれもがウフコックっぽくて愛嬌がありました。特にウフコックマウスは少しだけ欲しくなりましたね(笑

  • ドクター

 最初の運転のシーンでは今まで持っていた印象よりも乱暴で違和感があったのですが、バロットやウフコックとの会話を重ねるに連れて無くなりました。

  • ボイルド

 これまた長髪と細めの体躯に違和感を覚えていて、こちらの方は最後まで解消されませんでした。長髪の方が重力操作で壁を歩く時に映えるのは判りますが、うーむ。おいおい慣れていきます。

  • バロット

 元娼婦。痛んだ少女。
 こと彼女を魅力的に絵描くという点に関しては確実に成功していました。もう、めっさキュート。年は違いますが、『レオン』のマチルダなんか目ではないぐらい。娼婦姿、再生時のゼリーまみれの裸、シャワーでの裸、殻が割れた時の裸、タイトな私服、戦闘服etc――硬い、薄い少女ならではの体型とぴったりの服装とであでやかでした。
 特に法廷での正装――黒服を見にまとった美麗さは甘美極まりなく。彼女の為に人生を踏み外たい。


 声も新劇場版綾波風でしたが合ってないこともありませんでした。疲れている感じから、いっぱいいっぱいで喋っている感じまで幅広い演技で、一個人としてのバロットらしさを出すのは林原さんしかいなかったのかなあと。個人的には同年齢の少女がやるべきであった――と思うのですが。


 そして最後にバロットの戦闘美少女としての姿の格好良さ。或いは――無様さ。銃弾が飛び交い、電磁波がうねる、バリバリに動く戦場において彼女はヒートアップしていきます。意のままに変形する銃とスタイリッシュな動きはまさしくポストマトリックスです。
 しかし重要なのはその上。彼女は今まで男から受けた傷を男に返そうと、我を忘れ、乱用します。この過程はどうしようもない流れであり、当然のように打ちのめされます。その打ちのめされた血まみれな姿、再生して漸く表情を得た――醜い顔。今までの自分のせいである無様さこそが今の彼女を現していて、実にバロットらしい絵でした。このシーンを経て、更に変わっていく/痛みを乗り越えていく姿を“絵で”観てみたいという思いが起きたと言えます。

  • モチーフ

 殻と化石が繰り返し使われます。殻は何となく覚えているのですが、化石はさっぱり忘れていました。彼女の将来を予感させるキーワードになりそうなのですが、こんなに重要なキータームだったけと首を捻ってしまいました。このあたりは読み返さないといけませんね。

  • まとめ

 以上。原作ファンですが楽しめた劇場版でした。続きが今から楽しみです。

  • Link

 OHP-マルドゥック・スクランブル