ほしのうえでめぐる1 感想

 とある街の沖合にある人工島で建設されている宇宙エレベーター「明星」をめぐって繰り広げられる人間模様を描いた連作集。
 各話ごとに中心人物は異なっていてそれぞれ完結するストーリーラインがあるのですが、どの話も切っては切れないほど密接に繋がっています。人物関係・ガジェット・時間経過などなど後で補完されて、これはそういうことだったのか!と納得して話が膨らむ、パズルのような作りでした。そういう情報量の小出しの仕方が巧みで有り、まず連作物の水準点には悠々と達していました。
 最高だったのはSF的な話の持って行き方です。


 メインガジェットたる宇宙エレベーター「明星」は最初の短編では外側から"あきらめろ"と言われるような夢のとどのつまりとして描かれます。事故があって建設中止となったし、その先を夢見るな、と。続く短編でもツンデレ特撮物、ゴキブリ介護ロボット物となっており、「明星」そのものについてはほとんど触れられません。背景で緩やかに建設開始へと進んでいるのですが、どうにも茫洋としていました。未来にたどり着けない街を舞台にしたSF設定なのかな――ぐらいの印象でした。
 しかし。
 シリーズの折り返し地点であるEPISODE4・5に至り、「明星」制作について語られることで、ガラリと物語の色が一変します。詳しくは言いませんが、その展開は実に鮮やかでした。何せ、それまで語られた世界の絵には全く変わりありません。沖合に完成のめどが立たないテクノロジーの塊があるだけです。
 けれども漸く、豊穣な始まりを知り、豊穣な答えを目指しているのを知り――何も終わりはしていなかったのだ、とこれから物語が駆動していくのを憶えたのです。
 この認識の転換に興奮しないはずがなく。


 さて、各話のストーリーラインは基本的には明るいラブコメになっています。素朴な、と付け加えても良いぐらいにむずがゆい。
 好きみたいだけど嬉しいなら手を挙げて――とか何なんだよ!
 もとい。
 ハッピーエンドのラブコメが好きなら、堪能出来るでしょう。
 ちょっと良い話の作り方も上手かったですね。


 全10話である、と既に断言されているので残り5話。
 明星の最先端には何があるのか、彼は何なのか、事故は何が起こったのか、そしてニホンオンセンザルとは何なのか。
 全ての謎が解明され、夢見た未来を踏破していく続きを今から楽しみにしています。


 以上。ラブコメにして切れの良いSFの組み合わせは最高でした。

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