丕緒の鳥 雑感

 新潮文庫に移ってから新しく編まれた十二国記の短編集となります。
 一読してべた惚れ。こういうの大好き、という短編ばかりでした。
 作品内世界の常識・共通認識・標準技術のみに基づき描写されることでその常識・共通認識・標準技術そのものへの理解がより深まり、本編のストーリーに直接には関わらないけれども作品内世界の枠を豊かに広げる役目を果たされます。
 良く出来たシリーズにはそうした良く出来た外伝がつきものなのですが、本作はとびっきりでした。


 ・『丕緒の鳥』――慶東国の王の即位の礼で射られる的となる絡繰り仕掛けの陶製の鳥を製作する男がこれまで作ってきた工程と意図への無理解に苦悩しながら新たな鳥を開発する。
 ・『落照の獄』――柳北国で12銭のために8歳の子供を殺した事件を筆頭に23人を殺した凶悪犯が捕まり、彼を裁く司法官が100年以上振りに死刑を復活させるか審議する。
 ・『青条の蘭』――国王不在で揺らぐ雁州国で密かに広がりを見せ止めどない環境破壊へ至ろうとする樹木の病気の治療方法を発見し広報するため地方の木っ端役人など3人の男たちが奮闘する。
 ・『風信』  ――慶東国で起きた景麒を恋慕し女を追い出そうとした予王による混乱によって生まれ故郷を追われた少女が暦を作る役目の家に引き取られ、その浮世離れさに苛立つ。


 それぞれの短編が扱っているガジェット――絡繰り、法律、木の病気、暦――そのものにも魅了されます。しかし十二国記的としか言いようがない人為的で天命的な状況――正しい国王が即位して正しい治世をしないと必然的に国が乱れる――によって、ガジェットへの視点がぶれ、ぶれることで存在意義を問い直されます。
 王とその治世への期待をこめながら正しく理解されないことが続いた絡繰り細工にこれまで通りに魂を籠め続けられるのか。
 王の治世が劣化して国が徐々に乱れつつあることを誰もが予感し不安が募る中で、国中が注目する裁きの影響に恐れ雁字搦めになる司法官の法律と法律の解釈がどうあるべきかの机上の丁々発止の問答。
 樹木の病は国の乱れとは関係がなく、新たな国王が即位すれば国の乱れは治まるため一時的な嵐を息をひそめてやり過ごそうとする常識に抗ってどう病気を理解され、どう治療の必要性を広めるのか。

 これらの、その存在の強度を確かめるためと言わんばかりに作品世界内のかくあるものを力強く叩く書き様は引き込まれること間違いなし。
 密度の高い短編でしか生み出せない作品の圧力を味わえました。


 以上。傑作短編集でした。

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 OHP-小野不由美「十二国記」新潮社公式サイト

丕緒の鳥 (ひしょのとり)  十二国記 5 (新潮文庫)
小野 不由美
新潮社 (2013-06-26)
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