とある誠実な青年教師が3匹の猫と1人の天使を拾ったことから始まるラブコメ。
傾向としては落ち物兼同居物であり、ラブコメとして目新しい所は特にありません。
しかし要素要素が優しく丁寧に配置されており、作品内世界の雰囲気はかなり居心地の良いものとなっていました。ひいては読んでいてその居心地の良さに触れることで、読後感は幸せでいっぱいでした。
それでは軽く作品内の要素に触れていきます。
まず"ヒロインの天使・水上澪がえらい可愛い"ことが上げられます。感情表現はかなり控えめだけど素直で優しい恥ずかしがり屋――というまさしく天使的な性格をしており、主人公である青年教師にべた惚れです。その惚れ方が性格がにじみ出る惚れ方であり、実に可愛い。
そしてそんな"ヒロインと主人公の恋愛の仕方がかなり愛くるしい"ことも良かったです。加えて初々しい恋愛が日常生活に組み込まれている同居物の強みが全編これみよがしに効いていました。例えば毎朝起きて挨拶するだけでさえ転がりたくなる甘酸っぱさがあります。
「・・・・・・悟、起きて。悟?」
ユサユサ ユサユサ
・・・・・・尚も続く、揺れと呼び声。
「・・・・・・すまん澪。今日休みだろ? もう少し寝かせてくれ・・・・・・。昨日遅かったんだ――」
同居人である従妹の方を見もせず、俺はそのまま意識を落とそうとする。
「悟――。・・・・・・・・・・・・むぅ」
なんだか拗ねている様な声が聞こえた気がするが・・・・・・後で謝ろ・・・・・・。
そんなことを考えながら、意識がだんだんぼやけてきて――――ちゅっ
(『前略。ねこと天使と同居はじめました。 三匹目』、P9-10)
「むぅ」だって「むぅ」! 拗ね方がこれまたいいじゃないですか。こうした起こし方も1冊の中でバリエーションがあり、巻を重ねるごとに甘くなっていき、なおかつ安定した日常性が増していきます。それに起こすのは当然であり、起こしてから何をするか2人で考える、そんな楽しみ。や、幸福なことではないですか。
することもまあ、
「――ん?」
ツンツンと、服を引かれる。顔を向けると、少し頬を染めた澪が見上げてきていた。
「・・・・・・ん。明日は多分、大丈夫だから。その――一緒にお昼寝・・・・・・ね?」
(『前略。ねこと天使と同居はじめました。 三匹目』、P28-29)
お昼寝ときましたよ。もう存分に昼寝するが良い、この幸せカップルめがと思ってしまった瞬間でした。あとラブコメでありがちな周囲の甘い二人への囃し方も嫌らしいものではなく、二人の関係性の強さを改めて言葉にする物であり、気持ちが良い物となっていました。
他にも猫の描写が可愛いとか、脇キャラ同士の恋愛の描き方が上手いとか、上質な雰囲気を成立させる優しさがありました。
以上。ゆるーい恋愛&同居を楽しめる良作でした。都築真紀作品が好きな方は必ずや楽しめると思います。
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