願わくばこの手に幸福を 1~457話 の雑感

 最高に滾りました。
 あえて形容するならランスシリーズの世界で真っ当にダークファンタジー戦記をやったみたいで、もうこういうのを読みたかったという歓喜しかありません。
 なので備忘録としてちょろっと文章を書いておきます。


 好きだった女も誰もかもも英雄に心奪われ恋焦がれ、英雄のパーティの雑用として虐げられ無視され大事なものを取られていくのを眺めているしかなかった姓のないただのルーギスの惨めだった1周目。その最中にやり直さないかと囁く何者かの手を取り、訪れてしまった2回目の世界。ルーギスはどぶ攫いから再度始まる人生をどう生きていくのか――

 本作は基本的にはよくある人生リベンジ物。
 つまりはかつてあった1周目の改変であり、――自分を虐げたあらゆるものに対する復讐であり、神をも穿たんとする世界への報復の物語です。
 
 復讐――憎みから生まれる行為。
 全てを持つ者だった英雄が、英雄に惹かれ特異な才を持ち自分を不必要で無い存在として扱った女傑が、憎い。
 だから奪わねばならぬし、堕とさねばならない。
 そう嘗ての記憶を胸に、歴史を変えていきます。
 ただし歴史を変えると言ってもただのルーギスである彼には本来であれば世界史へ名を刻むのは荷が重い筈でした。しかし世界を救わんとした英雄のパーティを根こそぎ覆そうとするアプローチは否応なしに歴史の変革へと繋がってしまいます。身に余る冒涜的な行為は身を張ることでしか成しえず、敵――貴族、国、魔物、神――はいつでも彼よりも強大です。
 ルーギスは常に痛めつけられて、身を削られます。
 それでもなおとただの人間が摩耗しながらもた世界と歴史を変えていく生き様に、心を躍らせない筈がないじゃないですか。

 ここで復讐譚として上手いところは、憧れが良い割合で混ざっていたことです。
 それでも、たとえ憎んでいても、憧れたあの光は決して忘れえぬ――と。
 英雄は本当に世界を救いうる真の英雄だったし、自分を虐げた女傑らは武・知の人間の枠を超えた天才だったと。
 奪い堕としても、あの限界の見えない力が揮われるされることもまた望む矛盾。
 この復讐と表裏の憧憬が、ダークヒーローの見事な薫り付けになっていました。

 そして皮肉な作用と反作用。
 変えようとする意志があれば、変えられた意志があります。
 ルーギスにとって毎回毎回復讐を達成して横取りしたという認識のヒロインたちは目のハイライトが消えた不穏さを何故かしら発揮します。あっれー誇り高い傑物の筈なのに何でそういう反応をするんだろうと、ルーギスにとっては首を捻る連続となっていきます。
 このヤンデレ製造機さは爆笑の一言。
 ヒロインの地雷源とバッドフラグを全力で駆け抜けて煮詰めさせる在り方はもうまじ英雄でした。


 さて、それにしても457話まで至り、魔人と神の馬鹿馬鹿しすぎる権能と力が世界を歪めんとする中、ルーギスがどう歯向かっていくの本当に先が楽しみです。
 書籍化はちょっと芳しくなさそうですが、web版の更新を作者が望む形で続けられることを切に願っています。


 以上。個人的には現在アクティブなweb小説では10指に入れたいぐらいに好みです。

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