最底辺の男1 感想

 村井雅彦、16歳。彼は底辺の男だった。締まりの無い体型で卑屈な性格で臭いフェチであり、クラスではことあるごとに土下座させられていた。彼の矜持を支えるのはただ一つ、クラスに「最底辺の男」山田君がいることだった。しかし山田君に彼女が出来ることで村井の底辺の座が危うくなった。そのため村井は遠距離恋愛中の美少女の彼女、水沢遥が居ると嘘をつく。そして、次の日、水沢遙が転校してきたのだった――


 という感じの導入。そこからデートに流れ込み、喫茶店に入って二人が良い感じになったところで、こう来ます。

「と・・・ところでひとつ聞いてもいいかな?」
「何? 雅彦さん」
「君は・・・誰?」
  (P23-24)

 これが作品のベクトルを方向付ける決定的な問いになります。"水沢遙"の答えは「私は水沢遙だよ」に当然決まり切っているのですが、そこから"底辺の男"は丁寧に追い詰めていきます。彼の性質/臭いフェチと、彼の趣味/人間観察に基づいて、言い逃れ、言い訳、言い間違いを潰します。そして最終的には村井が足を舐めることで一つの契約が成ります。貴様の彼女になる代わりに、水曜日に底辺の人間を連れてこい、と。
 これで要素が出揃いました。"キミはダレ"という明かされない大問の下で、スクールカースト最底辺争いという生存競争を勝ち抜くために、臭いフェチ&人物観察趣味の主人公が底辺の人たちを選別していきます。後はもう、その要素の条件で起こりうる可能性がどんどんと繰り広げられます。いささか、最低な具合に。
 スクールカースト最底辺をうろつく人間だから誰も味方せず、親さえ見放ちます。また臭いフェチ/臭いに敏感な性質であり、人物観察に長けるからこそ、見抜きたくないものさえ見抜いてしまいます。例えば、自分が選んだ人間が自分のことをどう思っていたのか、とか。
 こうして、嫌なシチュエーションが大前提である目の前にしている彼女が誰なのかという謎に起因して積み重なっていく様は極めてスリリングなサスペンスになっていました。どこに着地するかわからないはらはら感はリアルタイムで追っていくからこそ増していくものですし、このまま続きを追っかけていきたい所です。なにせこの1巻の終わりが話になりません。最大限のカタルシスが発揮された血涙――さあこの後がどうなることやら。本当に興味が絶えません。


 なお、全体的に出オチの感があるので、
 最底辺の男-Scumbag Loser-(1) (ガンガンコミックスJOKER)
 この表紙と帯裏のセンスにOKなら読むのをお薦めします。


 以上。ダウナーにテンション高いカースト・サスペンスでした。


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