ドッペルゲンガーの恋人 雑感

 クローン技術が確立した世界で、嘗て死んだ人間の心をクローンに移植する実験が初めて行われた。恋人の“復活”を目の当たりにした主人公は何を思うのか、そして“復活”した少女は何を思うのか――
 

 相互非理解を語らせたら、特に一人称での語りでは横に出る者がいないと個人的にイチオシな唐辺葉介の最新作。
 クローン技術によって立ち位置が絶望的にずれた2人がどれだけ相互非理解を積み重ねていくか、主人公がどれだけ不理解によって周囲との差異を積み重ねていくのかを懇切丁寧に語れます。またSFの観点から不誠実に達成されそうになるディストピアユートピアを評価してみてもいいかもしれません。
 が、そういうことは他の方がより高度にやられるでしょうし、個人的に気になったことだけぐだぐだと語ってみることにします。


 具体的にはP116-140とP171との差異。
 ――その記憶を持つのは/語るのは誰だ、と。ケーキ屋関連、慧の姿etcあまりにも作品ベース内で異なっています。
 率直に解くならP116-140は悪い夢であり、P171が正しい現実の描写。悪い夢をみた景気の原因として、最後のシーンから逆算してジキルとハイドが始まっていたあたりになるのでしょうか。そして更に俗に解けば、P116-140はクローン技術がなければありえたかもしれない姿であり、P171は彼女が死ななければありえたかもしれない姿であった――という二重の比喩になっている、云々かなと。


 でも率直に解かなければ?
 個人的に精神を読み取る機械が夢=未来を見せていたという考えがガジェットB級SF偏愛派としては捨てがたいですが、まあ作者的にありえないでしょう。他にも色々考えられるので、出来るだけエキセントリックなものを取りたい所です(真顔。


 以上。まとまらないので強引に切り上げます。なお小説として総合的に考えると、そこそこ面白かったですよ。次回作も楽しみにしています。

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ドッペルゲンガーの恋人 (星海社FICTIONS)
唐辺 葉介 シライシ ユウコ
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