クロックワーク・ロケット 雑感

 <直交>三部作の1作目。
 相も変わらずハードSFなのですが、本当に歯応え抜群でした。

 や、概要を書くと単純な物語なのです。ある惑星の滅亡の危機を救う手段を発見するために科学者たちがロケットに乗って旅に出る、と。
 ただただ、その世界の法則への徹底性がハードさを際立たせているのです。「白熱光」ではまだ現実世界の物理法則なのでマシだったのだと思い知ったぐらい、仮想の法則で宇宙を成立させるとはこういうことだと剛球を投げ込んできます。
 観測し――真空中の光速は波長によって異なる速度で進んでいる、etc。
 計算し仮説を立てて正しいか検証して事実を記述し――時間と空間が等価である、etc。
 法則を打ち立てる――回転物理学。
 その法則によって観測されるデータは世界の危機を示していると正しく予測し、その危機を解決する手段は・・・今はないと結論付けます。
 ではどうするのか、なぜロケットを飛ばすことが世界を救う手段を見つけうるか――その法則の宇宙だからこそ成立する際限のない光速と逆ウラシマ効果――、そしてどうやってロケットを飛ばすのか――と法則を理解させてからは如何にして活用するかに苦心していきます。偶発的な気づきを計算可能な法則に回収していき、起こったことと起こりうることを記述可能のものにしていく在り方は本当に科学のダイナミズムを感じる書きっぷりでした。
 イーガン作品の感想では繰り返している言葉ですが、個人的にはこれぞSFという醍醐味を存分に味わえました。それもかなーーーり計算とか図示をすっ飛ばした上でなので、そのあたりが分かればもっと興奮できたのかもしれないと思うと羨ましい限りです。
 
 ここに惑星の生物学上の構造と社会の構造――男女はセットで双として生まれ、生殖すると女が分裂して2組4人が生まれる仕組みのため、子育ても社会の重要なポストも男が担っていて女はやや軽視されているという設定が加わり、主人公の女性科学者の障害となっていきます。構造の障害に翻弄されながら立ち向かって思うように科学に身をささげることが出来るのかという科学者物としての要素も切実で、物語性を高めていました。


 さて、本作はロケットに乗り込んだ第一世代まで書かれています。
 これから世代を重ねて、世界へさらに理解を深めて法則が増えていき、その法則を武器として世界に立ち向かえるようになるのか、それを読むのが本当に楽しみです。


 以上。次は第2巻のエターナル・フレイム。1巻以上にどハードらしいので戦々恐々として読み進めていくこととします。
 

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 <理解の参考にしたサイト>
  Geometry and Motion — Greg Egan
  時空が完全に対等な世界 - EMANの相対性理論
  クロックワーク・ロケットをよむ - Shironetsu Blog



 <同作者既刊感想>
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