Fate/Apocrypha 1-5 雑感

 魔術協会からの独立を目論むユグドレミア家と阻もうとする魔術協会の思惑が対立し、大聖杯のサーヴァントが7騎ずつが揃う黒と赤の陣営に判れて聖杯大戦が繰り広げられることとあいなった。生き残るのはだれで、大聖杯の奇跡を己のものとするか――

 というFateのスピンアウトシリーズ。
 TYPE-MOON作品をこよなく愛する者ではあるのですが、実は初読です。1巻の刊行が2012/12/31なので11年ちょっと経つのですが取っておこうと考えて取っておき過ぎていつの間にか今になっていました。ふんわりとした知識はあって、FGOでのコラボもあやふやな知識でも楽しめたので良しとここまで来てしまった次第。

 読んでみれば、あっという間に嵌って読み終わりました。
 そもそもの作者が冒険活劇の名手たる東出祐一郎さんなのですから、14騎のサーヴァントとマスターとが入り乱れる戦争を書いて面白くならないはずがなく。
 
 舞台はルーマニアで、かの地では比類ない名声を持つヴラド三世を筆頭とした英雄たちを擁した黒の陣営が待ち構え、
 得体のしれない神父・『シロウ』が指示をして赤の陣営が攻め込む。
 例外に例外が重なった聖杯戦争を管理するためルーラーが召喚され、被害が魔術師以外に広がらないようにするが、複雑な対立関係によって戦争はより混迷を増していく――。

 大きな目標はそれぞれユグドレミア家の独立と『シロウ』が目指す正義の達成と提示されるのですが、魔術師の最終目標たる根源への接続のためだったり、神秘の秘匿のためだったり、あるいは単純に欲望のためだったり、愛のためだったり、喫緊の目的のために陣営と敵味方はかなり流動的に動いていき、戦況も一刻一刻と変わってどちらが優勢か――己の願いの成就に誰が最も近づいているのか最後まで分かりません。

 ひとりひとりにフォーカスを当ててみれば、誰も彼もが辿る生き様と死に様は人物描写と合わせて魅力的に書かれていました。
 例えば戦いの最中のボーイミーツガールは自家薬籠でお手の物で、ホムンクルスジークくんとルーラーの辿るもどかしいそれは大変微笑ましかったです。
 それにどの英雄たちも生前の生き方と心残りとからサーヴァントとしてどう振る舞うか書き方の手つきは巧みで、蓋然性が高いそれぞれの最期を迎えていきました。
 広い目で見て戦争の行方を楽しむのも良し、誰かに肩入れして読むのも良し。
 個人的には達成されないだろうなあと予想しながら、それでも彼の願いが叶いますようにと思いながら、『シロウ』をいつしか応援していました。そもそものFateって、聖杯にかけた願望が叶えられないのもまた魅力でありますし、東出さんが魅力的な敵方を書くのが上手いので、一層その願いを目指した歩みの美しさが際立っていましたね。

 以上。つくづくエンターテイメントとして楽しい作品でした。こういうのの感受性からはもっと早く読むべきだったと思わなくはないのですが、懲りない対応ので、Fakeも完結してから読もうかなと考えています。

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